95.無自覚発明王
商人のラルクと商談を行い、その後魔王国を案内した。
夕方、国の国境付近にて。
「今日はありがとうございました、ジークさん。お忙しいのにお時間取らせてしまって」
「気にすんな。あんまうちって客こないからさ。こんな国だよって知って欲しかったんだよ」
同盟相手である獣人国やエルフの国とちがって、魔王国はやっぱり、敬遠されがちなんだよな。
どうしても、まだ人間の魔物にたいする忌避感は存在する。
「ジークさん、この国は素晴らしい国ですね。人も魔物も平等な命として扱われて、一緒になって暮らしていて、みんな笑っている」
ラルクはキラキラした目を向ける。
「こんなすごい国を作るなんて、ジークさんはほんとーにすごいお人です!」
「そりゃどうも。今後ともぜひごひいきに」
「はいっ! ぼく、みんなに広めます。魔王国はみんなが思ってるような怖いところじゃないって!」
「ありがとな」
魔物達が怖いという、人の意識をすぐには変えられない。
こうして少しずつ、悪いイメージを払拭していくしかないのだ。
「商人仲間にも、魔力結晶の良い仕入れ先があるって共有しておいてくれ」
「わかりました! とても優しくて人格者の魔王様が、商談に乗ってくれるって言っておきます!」
「よ、よせやい。照れるじゃんか」
では、とラルクが頭を下げる。
「これで失礼します。また来ますので!」
「おう。あ、そうだ。これやるよ」
俺は手のひらサイズの水晶の板を手渡す。
「なんですかこれ?」
「【水晶魔法板】だ」
「クリスタル・スクロール?」
「マジック・スクロールってあるだろ。読むと魔法が習得できるやつ」
「ええ、とても希少なアイテムですね」
「それを改良した。あれは覚えられる数に限りがあるけど、この水晶魔法巻物なら、水晶の中に魔法をためておいて、いつでも魔法が使えるんだ」
「なっ!? なんですってぇえええ!?」
水晶の板を、ラルクは目を剥いて見やる。
「これには俺の【転移】や【念話】の魔法が込められてる、用事があるときはこれ使って念話したり、物を仕入れるときは転移を使ってくれ」
「い、いやいやいや! ジークさん! あなた、とんでもないこと言ってるって自覚ありますか!?」
何を驚いているのだろうか、この子は。
「ジークさん、これ、すごすぎますよ! これがあれば魔法の適性がない人間でも、誰でも魔法が使えるようになりますよね!?」
「そうだな。まあ普通のより威力は弱まるけど」
たとえば転移魔法だったら、登録した地点にしかいけないなど、性能は普通に魔法を使うよりも劣る。
「いや十分ですよ! だって登録しておけば一瞬で行き来し放題じゃないですか! 往復に掛かる費用がまるまるただになるじゃないですか!」
「おう、良かったな」
愕然とした表情で……ラルクが俺と、水晶板を見やる。
「ジークさん……あなた、今、とんでもない大発明品を、ぽんっとぼくに渡してる自覚あります?」
「そんなたいそうなもんかね?」
「すごい品ですよ! これ……魔法学会が知ったら、みんな腰抜かします。革命が起きますよ……!」
「大げさだな。うちの国民みんなもって居るぞ、その板」
「そ、そんな量産が可能なんですか!? この……超高性能のスクロールが!?」
「おう。ほら」
俺は神の手による錬金を使って、ドサドサと、その場に同じものを山のように出す。
「…………」
ぺたん、とラルクがその場にへたり込んだ。
「どうした?」
「……じ、ジークさん……今って? どうやったんですか。スキル?」
「そう。神の手による錬金は、制限無くものを量産できるんだけど……どうした?」
「いや……もう……あの……あなたは、神様か何かですか?」
「いや、獣ノ医師だけど?」
ぶるぶるぶる! とラルクが首を強く振る。
「あなたのようなすごい人がただの獣ノ医師なわけないですよ! すごい……ジークさんは本当にすごい!」
キラキラとした目を俺に向ける。
そんなたいしたことしてるつもりはないんだが。
「ともあれ、これ1個持っててくれよ」
「ありがとうございます! 大事に使わせていただきます、ジークさん!」
ペコペコと頭を下げて、ラルクが言う。
「みんなに知って欲しいです。今の魔王は、強くて優しいだけじゃなく、人格者で、しかも無自覚に革命を起こしまくる、とんでもない傑物だって!」
「いや、だから大げさだってば。じゃ、またな」
ラルクはスクロールに入っていた転移魔法を使って、帰っていったのだった。
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