94.商人との取り引き
商人のラルク少年を助けたあと、俺たちは魔王国へ向かうことになった。
「ひひん、ぶるるう」
『へぇ、あんたのご主人も結構優しいわね。ま! アタシのジークには負けるでしょうけどぉ』
俺は地竜のちーちゃんの背に乗って、馬車と並走している。
ちーちゃんは楽しそうに、ラルクの馬と話していた。
「ラルクはうちになにしに来たんだ?」
「ひぇ……! へ、陛下に拝謁できないものかと……」
「そんな恐縮しなくていいって。ジークでいいよ」
「ありがとうございますジーク様……」
「様もいいって」
「ああ、なんてお優しい方だ。ぼくのような木っ端商人相手でも、気さくに話しかけてくれるなんて……」
まあ敵なら容赦しないが、ラルクは悪いやつじゃない。
それは彼の愛馬に対する態度と、なにより馬たちがラルクをとても信頼している。
獣の命を尊重するやつに、悪いやつは見たことないな。
「それでぼくがここに来た理由ですが、ぜひとも魔王国と友好関係が築けないかと思いまして」
なるほど、うちで生産しているものを仕入れたいようだ。
「いいぞ」
「え!? いいんですか!?」
「ああ、ちょうどうちで作ってるものを、商人に買ってもらいたいと思ってたからな」
「魔王国では何を作っているのですか?」
「ま、いろいろと。案内するよ」
俺はちーちゃんに乗って、農園へとやってきた。
「なっ!? なんですかこれっ!?」
「トマト畑だな」
一面に広がるトマト畑では、瑞々しい果実がたくさんなっている。
「魔王国の土は瘴気で毒されており、作物が育つはずがないと聞いたことがあります」
「俺が治癒魔法で浄化したんだよ」
「すごい! ジークさんすごいですよ! 強いだけじゃなくて浄化もできるなんて!」
「そりゃどうも。一個食うか?」
俺はラルクにトマトをひとつ手渡す。
しゃくっと一口食って、彼は声を震わせる。
「う、うまいぃいいいいいいいいいい!」
勢いよくラルクがトマトにかじりつき、あっという間に食べ終えてしまった。
「こんなにおいしいトマト! 生まれて初めて食べました!」
「大げさだなお前」
「いいえ! ぼく、こう見えて目利きには自信があります。これは、とても高く売れますよ! それがこんなにたくさん! ここは宝の山です!」
わぁわぁとラルクが歓声を上げる。
「少しやるよ。ただで」
「ただ!? 嘘ですよね!?」
「お近づきの印ってやつだ。他にもいくつか持って行っていいぞ」
「いやいやいや! ジークさん! できません! だってここの作物ダイヤの原石に匹敵しますよ!? そんなただでもらえません! きちんと適正な料金を支払わせていただきます!」
俺はラルクを見て感心していた。
魔王に就任してから、何人か商人と取引の話をもちかけられた。
商人はどいつも欲に目がくらんだやつらばかりだった。
「感心したよ。あんたとはいい関係が結べそうだ。ひとつ、買い取ってもらいたいもんがあるんだ」
「なんでしょう?」
「人工の魔力結晶」
「へ……えぇえええええええええええ!?」
驚くラルクをよそに、俺は端っこのトマト畑へと近づく。
ボール大の大きなトマトを手に持って、ラルクの元へ。
手刀で斬って見せると、果実の中に、魔力結晶があった。
「そ、そんな馬鹿な!? だって、魔力結晶は魔物の体や、迷宮でしか決して手に入らないはず! なんでトマトに!?」
「最近、人の手で魔力結晶を生み出す研究しててさ。これは試作品」
「あ、ありえない……本物だ。人工で生み出せるなんて、これは、歴史的な大発明ですよ!」
迷宮を調べた結果、壁に含まれる鉱物が魔力結晶を産みだすことがわかった。
壁を粉々に砕き、それを苗床にして、トマトを作った。
結果、トマトの中に結晶を作ることに成功した次第。
「ジ、ジークさん……そんな簡単に言ってますけど、これ、本当に偉大な大発明です。世界を根底から覆しかねません」
今まで天然ででしか手に入らなかったものだからな、これ。
錬金の力で俺も生み出せるけど、俺が死ねば供給も途絶える。
だから、誰でも簡単に作れる方法を模索したのだ。
「ジークさん……あなた、何者なのですか? あんなに強く、こんな世紀の大発見をし、しかも治癒の腕まですごいなんて……」
「単なる獣ノ医師だよ」
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