92.魔獣の操者ジークフリート
隠しダンジョンでの騒動から、ひと月が経過しようとしていた。
ある日のこと、俺は砂漠地帯に、ちーちゃんとともに訪れていた。
「ジーク殿、本当におひとりでいいのか? 相手は古竜ベヒーモスだぞ?」
セシリーたちSランク冒険者が、心配そうに俺を見やる。
今回のクエストは、砂漠地帯に出現する古竜の討伐、となっている。
もちろん殺す気なんて毛頭ない。
「問題ない。危ないから下がっててくれ」
ベヒーモスの強さはSSランク。
本来古竜は複数のパーティが組んで倒すモンスター。
だからセシリーたちもいるのだが、今回は控えに回ってもらった。
「セシリーさん、いいんですか? あの人一人で」
今回初めて組んだ、別のパーティのリーダーが、不安げに尋ねる。
「無論だ。キミも知っているだろう。最速でSランク冒険者になった男の噂を」
「ま、まさか……彼が【魔獣の操者】か!?」
俺はひとりで砂漠を歩く。
ずずず、と地面が盛り上がり、そこから見上げるほどの巨大な竜が出現した。
体全体が岩の鎧に包まれており、その大きさは山に匹敵する。
これが古竜ベヒーモス。
「に、逃げたほうが良いのでは!? 死んでしまいますよ彼!」
「だいじょーぶよ、アタシのジーク信じなさい」
ちーちゃんは万一に備えて彼らのもとへ待機してもらっている。
今もベヒーモス登場の際の衝撃と砂塵を、風の防壁で防いでもらっていた。
「暴れてるようだな。何か事情があるのか?」
俺はベヒーモスを見上げて言う。
始祖の呪いが解けているので、人を襲うはずはない。
ぐぉ、とベヒーモスが口を開き、俺に顔を近づけてくる。
「あ、危ない! くわれるぅううう!」
冒険者たちが目を閉じた、そのときだ。
『実は歯がいたいのじゃよ』
びた、と俺の前で止まると、ベヒーモスがそういった。
「なるほど、少し中見せてくれるか?」
『よろしくお願いしますじゃ』
よいしょ、と俺はベヒーモスの口の中に入って調べる。
「虫歯だな」
『なんとかならぬかのぅ』
「任せとけ」
神の手を使って、虫歯になっていた部分を治療する。
パパッとなおし、俺はベヒーモスの口から出てきた。
『おお! これはすごい! とても楽になったのじゃ! ありがとう!』
「甘いもんばっか食ってるんじゃないか?」
『サトウキビ畑が近くにあってのぅ』
2、3小言を言うと、ベヒーモスはしゅん……とうなだれながらも、素直に頭を下げた。
「し、信じられん……古竜が、人の言うことを聞いてる、だと……!」
「ふふん、すごいでしょ。アタシのジークは獣にとても好かれてるんだから!」
俺はベヒーモスのもとを離れ、パーティたちの元へ。
「話は終わった。虫歯で気が立っていたらしい。もう悪さしないってさ」
ギルドはあくまで被害を止めてほしいと、住民から依頼を受けている。
討伐する必要ないとわかれば、別に殺さなくていい。
「おお! さすが【魔獣の操者】殿! どんな獣も言うこと聞かせられるなんて!」
この1ヶ月、討伐の依頼があるたび、こうして魔物たちを討伐以外の方法で、騒動を沈めて行った。
その結果、変なあだ名がついてしまった。
『先生先生』
「ん? どうした?」
ゆっくりと顔を近づけて、ベヒーモスが言う。
『また来てもらうのもめんどうじゃ。おぬしのところで厄介になってもいいかの?』
「別にいいぞ」
よしよし、と俺はベヒーモスの顔をなでる。
「こ、この竜はなんと?」
「仲間になりたいんだってさ」
「おお! 古竜を従えるなんて! すごい! さすが魔獣の操者!」
その後ギルドまで戻り、経緯を説明。
仲間になったのでもう大丈夫というと、あっさり依頼達成となった。
「この1ヶ月ですごい数の魔物が仲間になったわね。もうすっかり有名人、アタシも鼻が高いわっ。さすがアタシのジーク!」
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