91.勇者、負け犬の遠吠えする
魔王ジークによって、隠しダンジョンに取り残されたSランク冒険者達は、救出された。
ダンジョン内にいた全員を連れ、ジークは転移魔法でギルドへと戻ってきた。
ギルド会館の扉をくぐる。
「み、みんな……! 【銀翼のカルマ】たちが! 帰ってきたぞぉおお!」
「「「なっ、なんだってぇ!?」」」
ワッ……! と冒険者たちが、セシリーたちパーティを取り囲む。
「おかえりセシリー!」「良かった、無事で良かったなぁ……!」
彼らは皆、セシリー達の帰還を喜んでいた。
「心配をかけたな、みんな。だが、このジークフリート殿のおかげで我らは助かったのだ!」
セシリーの言葉に、冒険者達の視線が、仮面の男へと集まる。
「……そりゃ、信じられないよな」
小さくつぶやくジーク。
だが、わっ……! と冒険者達が歓声を上げると、彼に集まっていく。
「ありがとう! セシリー達を助けてくれて!」「おれたちの希望を救ってくれて本当にありがとう!」「あんたはすげえやつだ……!」
みなセシリーに世話になった者達だった。
助力を求められた際に、なにもできず、歯がゆい思いをしていた。
そこへジークが来て、鮮やかに彼女たちを救ってみせた。
みな彼へ深く感謝していた。
「おお! 帰ったかおまえたち!」
「ギルマス! ただいま帰りましたっ!」
セシリーが代表して、ギルマスに事の顛末を軽く話す。
「なんと! やはりジークフリート、おまえはたいした男だなァ……!」
ばしばし、とギルマスはジークの背中を叩く。
「おっと、今回のクエストによる報酬を考えねばな。ふむ……セシリー達の救出と、迷宮でのことを勘案すると、Sランク昇格などどうだ?」
「「「なっ!? なんだって!?」」」
その場にいた全員が、驚愕の表情を浮かべる。
「何か驚くことなのか?」
ジークの問いかけに、ギルマスが笑ってこたえる。
「新人が入ってすぐに昇格すること自体まれだ。それが、最低のFランクから、一気にSランクになったなんて前代未聞の事態だぞ」
「いいのか?」
「無論だ。それくらいの貢献を、おまえはギルドにしてくれたからな! さっそくSランク昇格の手続きを……」
と、そのときだった。
「ちょおおっと待てぇええええええええええええええええええええ!」
声を荒らげたのは、今まで黙っていた男……元勇者マケーヌだ。
彼は迷宮のトラップにはまり、身動きができなかった。
だが迷宮消失とともに外へ脱出できた。
その後、ジークの転移で一緒にここへ戻ってきた次第。
「なんだマケーヌ? なにか問題でも?」
「問題ありありだよギルドマスター! こいつは……! 魔王なんだぞっ!」
マケーヌは悔しかった。
魔王が活動初日で大活躍し、Sランクに昇格することになったのだが……許せなかったのだ。
「その証拠に……おらぁ……!」
マケーヌはジークの仮面に手を伸ばす。
だが彼はその手と足をパシっと払う。
「ふげっ!」
顔面から転げ落ちるマケーヌを、周囲にいた冒険者達があざ笑う。
「なーにあれ、だっさ」「きっと言いがかりだろ。自分が大口叩いて冒険者になったくせに、たいした活躍できなかったから」「身の程知らずもいい加減しろよカスが」
ぐぐっ、とマケーヌは歯がみして言う。
「ほ、ほらぁ! 見ただろ今の! こいつは仮面を取るのを嫌がった! つまり! 素顔を見られたくないんだよぉ!」
勝ち誇ったようにマケーヌが言う。
「いいのかおまえらよーく考えろぉ! こいつは魔王だぁ! 人類の敵だぁ! そんなのをSランクなんかにしてみろぉ! 他のギルド連中からどういう扱いを受けるだろうなぁ!?」
「黙れ、マケーヌ」
ギルマスは冷ややかな眼で、倒れ伏す元勇者を見やる。
「ジークフリートが何者であろうと関係ない。彼の強さ、そしてギルドへの貢献度を考慮した結果、Sランクに昇格させるのだ」
「し、しかし! こいつは魔王で……!」
「冒険者は自由だ。誰であろうとなれる。この場にいる者だって、後ろ暗い出自のヤツもいるだろう。それでも仲間と受け入れて共同歩調を取っていく。それが、冒険者ギルドだ」
ギルドマスターを含めた、周囲にいた冒険者達がうなずく。
「ジークの実力、そして高潔なる精神は、今回のクエストで証明された。もし本当に悪しき魔王なら、セシリー達を救う意味がわからない」
「そ、それは……それは! なにかそう……! なにか悪巧みを考えてるに違いない……!」
はぁ……とギルマス達は冷ややかな眼とともに、ため息をつく。
「ジークに関してはもういい」
「良くない! ギルマス! きちんと精査するべきだ! こいつはなぁ……!」
「次はマケーヌ、貴様の処遇についてだ」
「は…………? しょ、処遇?」
ギルマスはマケーヌを見下ろして言う。
「おまえ、なぜ許可なくダンジョンへ行ったのだ?」
「は……? アッ……!」
そう、ダンジョンに潜れるのは、ギルドマスターに実力が認められた者だけだ。
「おまえ、セシリー達とともに帰ってきたな。あの場になぜいた?」
「ち、ちが……僕は……」
セシリーがやってきて、マケーヌを指さす。
「こいつもジーク殿によって助けられた救助者の1人です。つまりダンジョンにいました。無許可で」
「て、てめえ……! 余計なこと言うんじゃあねええ!」
ギロッ、とセシリーににらまれ、気圧されるマケーヌ。
「規則を破ってダンジョンに潜ったくせに、自分のことは棚にあげるのか? 随分と都合のいい話しじゃないか」
「そ、それは……そ、それとこれとは別問題だろぉお!?」
だが、この場でジークについて言及する者はいない。
ジークはギルマスの許可を得て、合法的に潜ったのだから。
「マケーヌ。貴様へは二ヶ月の謹慎処分を言い渡す」
「に,2ヶ月だとぉ!? その間、どう食いつなげば良いんだよぉ!?」
だが、誰もがもうマケーヌへの興味を失っていた。
「さぁ……! 今日は新たなSランク誕生の瞬間を、みなで祝おう! わしのおごりだ!」
「「「おおおおおお!」」」
みんな、ジークに対して期待と羨望のまなざしを向けていた。
「やっぱすげえやジークさんは!」
「だよな! 最初ここにきたときから、ただものじゃない雰囲気出てたし!」
「どっかのバカとは大違いだよな、ほんと!」
みんながマケーヌを放置して、ギルマスとともに奥へ行く。
「あ、あーあ! バカな奴らだ! あいつは魔王なんだぞ! いずれ本性を丸出しにして襲いかかってくるぞ! そんときに仲間にしたこと、後悔してもしらねーからな! あーあ! バカな奴らだ! あーあーあー!」
……だが、誰1人として、マケーヌの言葉に耳を貸す者はいない。
1人取り残されたマケーヌは、祝杯ムードに居心地の悪さを感じ、寂しくその場をすごすごと退散したのだった。
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