88.勇者、隠しダンジョンで迷子になる
ジークがSランク冒険者とともに、仲間を救出に向かった。
一方その頃、勇者マケーヌはと言うと。
彼もまた、迷宮を訪れていた。
「魔王の野郎、人助けとか何善人ぶってるんだ。てめえのことだ、どうせ悪巧みを考えてるんだろ? 暴いてやる!」
こっそりと、ジークたちの後をつけてきていたのだ。
「……しかし魔物が襲ってこないな。魔王にビビって……いや! そんなはずない! あんなのは雑魚だ!」
魔王達は壁に触れると、転移の魔法が発動して消える。
「よし、僕も続くぞ」
ジークに続いて壁に触れる。
視界がグラリと揺れると、さっきまで居た場所とは、別の場所に転移していた。
「ここが……隠しダンジョンか」
先ほどまでの洞窟内とは違い、石畳の通路だった。
どことなく城の中のような趣である。
「クソ……! 魔王の野郎……どこ行きやがった!?」
同じ場所にたどり着くと思っていたのだが、魔王の姿が見えない。
「まあ、救助者のとこへ行くって建前だから、そこへ向かえば合流できるか」
左右を見渡し、適当に右の通路を選んで進む。
「僕は勇者、選ばれし存在なんだぞ? 今は……ちょっと調子よくないけど、でも本来の力が発揮できれば、こんな場所余裕なんだよ!」
進んでいったそのときだ。
ガシャン、ガシャン、という金属音がこちらに近づいてくる。
「敵か……? なんだ、首無し騎士か」
Aランクのモンスターだ。
ベテラン冒険者でも手こずるような相手。
しかしマケーヌは余裕の表情で剣を抜く。
「確かに力が戻っていない状況で、戦うのは自殺行為だろう。けど、僕は有象無象とは違う選ばれし存在。こういう窮地にこそ、力が覚醒するというもの……!」
剣を優雅に抜いて、首のない騎士に向けて剣先を向ける。
「そのまま敵を倒し、隠しダンジョンも余裕で突破。ついでに迷ってるSランクたちも助ける。勇者マケーヌの……復活だ!」
たんっ……! とマケーヌは地面を蹴る。
「死ね雑魚がぁあああああああああ!」
首無し騎士は軽く剣を振り上げる。
ヒュッ……! と風切り音がすると、ぼとり……と何かが落ちる。
「はえ……? ひ、ひげぇあぁああああああああ! 腕がぁ! 腕がぁあああああああああああああああ!!!!!」
剣を持ったマケーヌの腕が切断されていたのだ。
あまりに早く、何をされたのかすらわからなかった。
「腕が! 僕の! 勇者の腕が!」
パニックになったマケーヌは、止血などという冷静な判断をすることができなかった。
転がり落ちた腕を拾おうとするも、首なし騎士に踏み潰される。
「ひ、ひぎぃいいいいいいいいい!」
無様に泣きわめきながら、マケーヌは来た道を引き返す。
「これは逃げてるんじゃない! 戦略的撤退だ!」
しばらく走っていくが、しかし、たどり着いたのは全く知らない部屋だった。
「そ、そんな!? どうなってるんだ! 来た道をそのまま戻ってきたのに! くそっ! どこで道を間違えたぁ!?」
マケーヌは知らない。
この隠しダンジョンは、常に通路が変化している。
別の場所に繋がったり、封鎖されたりとしているせいで、元の部屋に戻れなかったのだ。
「グロォアオオオオオオオオオオオ!」
首無しの騎士が追いかけてくる。
「ひぇええええ! 来るなぁ! 来るなよぉおおおおお!」
マケーヌはとにかく、騎士から逃げようとする。
だが闇雲に逃げ回っているだけなので、当然、迷子になる。
魔王との合流もできないし、ワープゲートの部屋へとたどり着けない。
「はぁ……! はぁ……! く、くそぉお! なんでこんな惨めな目に……! まさか勇者を殺すための、魔王の策略か!」
そんなわけがない、隠しダンジョンの仕様である。
無策で立ち入れば死ぬ場所なのだ、ここは。
ふらふら歩いていると、カチッ! と何かのスイッチを踏んだ音がした。
「なんだ……ひっ! 落とし穴……! うぎゃぁあああああああ!」
突如空いた穴の下へと、マケーヌは落ちていく。
どしんっ! と激しく腰を打ち付ける。
「いてええ……いてえよぉ……」
マケーヌは見上げる。
落ちてきた場所さえ見えないほど、高所から落下したらしい。
「どうやって……出ればいんだよぉ……ここぉ……」
深い落とし穴の底。
四方は壁で包まれている。
登ろうにもかなりの距離がある。
さらに迷宮の壁はつるつるとしていて、なおかつ頑丈。
壊すことは不可能だし、掴んで登ることもまた然り。
「くそっ……くそぉ……なんで、こんな目に……僕は、勇者なんだぞぉ……ちくしょぉ~……」
誰も助けてもらえぬ穴の底で、マケーヌは惨めに涙を流すのだった。
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