87.サクッとダンジョンの奥へ
俺はSランク冒険者セシリーとともに、ダンジョン内部に入る。
一見してただの洞窟のような見た目だ。
「隠しダンジョンってわりに、普通の見た目だな」
「正確に言えば、迷宮内に隠し通路があって、そこからさきが隠しダンジョンなのだ」
なるほど、いわばここは通常の迷宮ってわけか。
「ジーク、ここ変よ。生き物の気配がしないわ」
「だが魔物はいるようだな」
俺の目の前に、大きめのネズミが現れる。
巨大鼠。ランクはE。
「敵だ! ジーク殿、下がって」
「いや、大丈夫だ」
俺は巨大鼠に近づく。
始祖の呪いを解く……つもりだったのだが。
ガキンッ! と鼠が俺の腕にかみついてきたのだ。
「だ、大丈夫なのか!?」
「この程度ノーダメージだ」
「す、すごい……なんて頑丈なのだ……」
しかし解せなかった。
呪いを解き、魔物は人間を襲わなくなったはずなのにな。
それにちーちゃんの言っていた、生き物の気配がしないってのも気になる。
「【神の手】で調べてみるか」
俺は巨大鼠の体に触れる。
生き物なら何でも治癒できるこの力。
しかし、反応を示さない。
「やはり生物じゃないのか」
救世ノ王となったことで、俺が本来持っていた鑑定スキルもまた進化していた。
手で触れただけで、体の内部構造を即座に理解する。
「わかった。ちーちゃん。こいつらはよくできた【ハリボテ】だ」
「ハリボテ? どういうことなの?」
「見た目は魔物そっくりだが、魔力結晶に高濃度の魔素がくっついて、本物に見えているだけの偽物ってわけだ」
ぴんっ、と巨大鼠の額にデコピンする。
ボシュッ……! と頭部が吹っ飛ぶ。
体が湯気を立てながら消滅し、魔力結晶のみがコロン……と落ちた。
「ほんとうだ。本物の魔物なら、倒しても死体が残るのに。迷宮の魔物は外のと違うってことかしらね」
普通に会話する俺とちーちゃんをよそに、セシリーはおののく。
「で、デコピンの一発で……Eランクの魔物を一撃で倒すなんて……すごすぎる!」
感心したようにセシリーがつぶやく。
「隠しダンジョンの入り口は、ここから遠いのか?」
「ああ、だいぶ下層にあるのだ」
「となると魔物とだいぶ遭遇しそうだな」
「無論、下へ行けば行くほどエンカウントが多くなっていくな」
正確には迷宮の魔物は、俺の知っている普通のそれではない。
粘土で作った命なき人形を、糸で吊って操ってるようなもんだ。
とは言え見た目は普通のモンスターと同じだからな。
できれば余計な戦闘は避けたい。
そのとき、巨大鼠の集団が、俺たちのもとへ駆け寄ってきた。
「戦うぞ!」
「いや、大丈夫だ。それより、ふたりとも下がっていてくれ」
「し、しかし!」
「まあまあ。ここはジークに任せましょ」
不安げなセシリーの腕を引いて、ちーちゃんが言われたとおり、俺から距離を取る。
だだだっ、と巨大鼠たちの大群が、俺めがけて襲いかかってきた。
「あ、危ない……!」
「……立ち去れ、おまえたち」
俺は魔力を込めて、そう言った。
ぶわっ……! と衝撃が迷宮中に響き渡る。
鼠たちは悲鳴を上げると、向きを変えて、駆け足で去って行く。
「す、すごい……鼠たちが逃げていく……!」
「ジークの強さに、迷宮中のザコ魔物は全部、ビビって逃げていったようね。さすがジーク♡」
地竜には探知スキルが備わっている。
周囲の魔物の気配を感じ取れる便利なスキルだ。
「め、迷宮中の魔物を全部!? お、恐ろしいな……あなたは……」
「これでビビらない魔物もいるだろうけど、ま、隠しダンジョンの入り口までは大丈夫だろ」
俺はふたりを連れて、先を進む。
道中、一匹たりともモンスターと遭遇することはなかった。
「し、信じられない……もう隠しダンジョンの入り口まで来てしまった……」
一見すると壁だが、転移の罠がしかけれらているのがわかる。
これを使って隠しダンジョンへと飛ぶらしい。
「ここから外まで、かなり手こずったというのに……こんな短時間で……やはり、あなたはただ者ではないな……」
「よし、急ごう」
俺たちは壁に手をついて、転移するのだった。
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