85.勇者、魔王に突っかかるが無様をさらす
仮面の冒険者、ジークフリートが、元Sランク冒険者のギルドマスターを瞬殺した。
「いやぁ! 恐れ入った! 見事な強さだなぁ坊主!」
訓練場にて。
目を覚ましたギルマスが、ばしばし、とジークフリートの背中を叩く。
「今まで生きてきて、おまえさん以上に強い人間に出会ったことはない!」
大絶賛されるジークを見て、ギリッと……とマケーヌは歯がみする。
「クソッ……! 僕だって、あれくらい……!」
同じような新人のくせに、褒められているジークが気に入らないのだ。
「すごい! すごいわ! アタシも鼻が高い♡」
美少女ちーちゃんが、むぎゅっとジークの腕を掴む。
それもまた、気に入らなかった。
「ありがとうございます。これで実力を認めてもらえましたでしょうか?」
「無論だ! おぬしにダンジョンの立ち入りを……」
そのときだった。
「ちょっと待ちなよ!」
マケーヌはジーク達に近づいて、指を差す。
「僕は今の戦い、認めないぞ!」
「……はぁ?」
フンッ! とマケーヌは鼻を鳴らしていう。
「おまえ、ギルマスとグルだったんだろ! 八百長だ! 八百長試合だ!」
ジークもギルマスも、心底あきれ果てた様子でため息をついた。
「このばかは放っておいて、坊主、その強さはどこで見つけたものなんだ? 部屋でじっくり教えてくれないか?」
「無視するな馬鹿ギルマス!」
マケーヌは今の試合内容に納得がいっていなかった。
そもそも勇者である自分が、速すぎて見えなかったなんて事実は認められない。
裏で示し合わせて、やられた振りをしたのだ……と思うことで自尊心を保つ。
「ダンジョンへの立ち入りをおまえさんには許可しよう」
「僕は!? ねえ僕は!?」
「おまえは弱いから駄目だ。一から修行を積むんだな」
マケーヌは強く歯がみすると、剣を抜いて、ジークに向ける。
「おい仮面の男! 僕と勝負しろ!」
「……意味わからん」
「僕が勝ったら実力が本物だって認めてやっても良い! 断るようなら八百長で冒険者になったって、ギルド中に言いふらしてやるよぉ!」
ジークは心底煩わしそうにため息をつく。
「試合開始だ! おらぁ! 死ねぇ!」
とマケーヌが斬りかかろうとする。
ジークは一歩も動かなかった。
何もしていないはずなのに、マケーヌは尻餅ついた。
「あ……あぁ……」
彼の生き物としての本能が訴えていた。
彼に敵意を向けた瞬間、圧倒的なまでの死のイメージを覚えた。
体が、震えていた。
理解しているのだ。
この仮面の男に挑めば、死んでしまうと……。
「なるほど、殺気を軽く向けるだけで、こんなザコを震え上がらせるとは。いや見事だな坊主!」
「さっすがアタシのジーク!」
……と、そこでマケーヌは気づいた。
「この……感覚。どこかで……それに、ジークって……」
目の前にいるだけで感じる、圧倒的な力の差。
そして相手を震え上がらせるだけの、殺気。
その上……ジークという名前……。
「お、おまえまさか! ま、魔王!?」
マケーヌは声を荒らげて、仮面の男を指さしていう。
「魔王? 何を言ってるのだ貴様は?」
ギルマスが首をかしげる。
「こ、こいつ魔王だ! 魔王国のジーク! こんなところで冒険者してやがったのかぁ!」
勝ち誇ったように、マケーヌは言う。
「ギルマスぅ! こいつは魔王だぞぉ! ギルドから追放しろぉ!」
「ふぅ……馬鹿なことを言うな。彼を追放? するわけないだろ、こんな有望株をな」
「なっ!? なんだとぉ!」
ギルマスはすっかりジークフリートを気に入っている様子で、彼の肩を叩く。
「強く、礼儀正しい、そんな彼が魔王な訳がないだろ?」
「ふざけんな! そいつは人類の敵の魔王だぞ!? そんなことも見抜けないとかどんだけ節穴なんだよその目はよぉ!」
目障りなこの男をギルドから追い出すチャンスとばかりに、マケーヌはまくし立てる。
「彼が魔王という証拠はどこにあるのだ?」
「か、仮面だ! おい仮面とりやがれ! 魔王じゃないっていうならぁ……!」
「もういい加減にしろ!」
声を荒らげたギルマスが、マケーヌに近づいて、その頬を強打する。
「ぶげらっ!」
ぐるん、と一回転し、マケーヌは倒れる。
「それ以上、この期待の新人ジークフリートにいちゃもんをつけるようなら、ギルマスの権限で貴様をギルド追放してもいいんだぞ!?」
這いつくばるマケーヌに、ギルマスが吐き捨てるように言う。
「そ、そんなぁ~……」
ギルマスは仮面の男にぺこりと頭を下げる。
「職員が、無礼を働いた。キツく言って聞かせるので、彼を許してほしい」
「……まあ、別にいいよ」
「おお! なんと寛大なのだ! ますますわしは君が気に入ったぞ!」
親しげに肩を組むギルマス。
ぎりり……とマケーヌは歯がみする。
「ちくしょぉ……魔王めぇ……その化けの皮、絶対剥いでやるから、覚悟してろよぉ~……くそぉお……!」
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