83.勇者、仮面の新人冒険者に嫉妬する
セインに追い払われたマケーヌは、すごすごと冒険者ギルドへと帰ってきた。
「くそがっ! どうしてこうも上手くいかないんだよっ!」
ギルド会館に入った直後。
ドンッ、と何かにぶつかったのだ。
「いったいなぁ! 気をつけろよ!」
「……すまん。って、あ」
目の前に居たのは、奇妙な男だった。
黒いコートに身を包み、真っ白な仮面をかぶっている。
妙な出で立ちではあるものの、冒険者は変わり者が多いので、特に悪目立ちはしていない。
「……ここ、マケーヌの居るギルドだったのか。厄介だな」
ぽりぽり……と男が頬をかく。
「ジークー! 受付こっちだってぇ!」
「ジーク、だと……?」
ぶんぶんと手を振りながら、別の人物がやってくる。
赤い髪の、とてつもない美少女だった。
日に焼けた肌に、豊満な乳房。
ショートパンツにシャツ一枚で、革の鎧という、なかなかに扇情的な衣装。
「…………」
ごくり、とマケーヌは生唾を飲む。
すっかり、この美少女に一目惚れしてしまった。
「ち、【ちーちゃん】っ。しー! ここではほら……」
「あっ! ご、ごめんなさい……」
この美少女は【ちーちゃん】という名前らしい。
もちろん、呼称だろう。
「ええっとその……えっと……じ、【ジークフリート】! 受付こっちだって。早くいきましょっ」
ちーちゃんは仮面の男、ジークフリートの仲間であるらしい。
「ちょっと待ちなよ」
マケーヌは髪の毛を整えて、ジークフリートたちに声をかける。
「……なんでからんでくるんだよ」
やれやれ、と仮面の男がため息をついて首を振る。
「おまえ新人か? よければ先輩の僕が、冒険者登録の仕方を教えてやっても良いぞ?」
マケーヌが声をかけるのは、仮面の男……ではない。
彼の興味は、赤髪の美少女ちーちゃんだけだ。
無遠慮に手を握り、受付へと連れて行こうとする。
バシッ! とちーちゃんに手を払われる。
「気安くさわんないでよねっ!」
「気の強いところもいいじゃあないか。うん、ますます気に入った」
にんまりと気色の悪い笑みを浮かべて、マケーヌが言う。
「おまえ、特別に僕の仲間にしてやるよ。この勇者マケーヌ様のお供になれるんだぜ、光栄だろぉ?」
仮面の男は心底めんどくさそうに、はぁ……とため息をつく。
「ちーちゃん。別のギルドにいこう」
「そうね」
マケーヌなど見向きもせず、ちーちゃんはジークフリートとともに出て行こうとする。
「ちょっと待てよ!」
またちーちゃんの手を握ろうとした、そのときだった。
ドサッ……! とマケーヌは地面に転がっていた。
「なっ!? なにがおきたんだ……速すぎてわからなかった!?」
仮面の男ジークフリートの前で、マケーヌは訳もわからず倒れていた。
「あーん、ジークぅ~♡ 守ってくれたのねっ♡ すきっ♡ すきすきっ♡」
ちーちゃんは仮面の男に抱きつくと、何度もキスをする。
周りの目……特に、マケーヌなど眼中にないように、ラブラブッぷりを見せつけてきた。
「て、てめえ……! 後悔しても知らないぞ! 僕のような将来有望なやつより、そんな得体の知らないザコを取るなんて! あとから後悔しても知らないんだからな!」
「フンッ! いきましょジーク」
ふたりはそろって、受付へと向かう。
彼らは受付嬢の前で、さらさらと書類を記入する。
「【ジークフリート】様に……【チリュー】様ですね。確かに受理しました。それでは、魔力の測定を行います」
魔力は身体強化、魔法・スキルの使用に必須となる。
魔力量はそのまま、冒険者としての実力と直結するといってもいい。
ギルドはまず魔力を測定し、その人物がどの程度の将来性があるかを把握するのだ。
「アタシはあとでいいわ。ジークから」
「……ああ」
ふらふらと立ち上がり、マケーヌはフンッ……! と鼻を鳴らす。
「見るからにヒョロヒョロ。魔法使いタイプか? けれどたいしたことなさそうだ」
受付嬢が魔力測定の水晶玉を机に置く。
ジークフリートがそれに触れる前に……。
パリィン……! と粉々に砕け散った。
「壊れたぞ?」
「なっ!? そ、そんなはずは……おかしいな……新しい物を持ってきます!」
受付嬢が、今度は巨大な水晶玉を持ってくる。
ジークがそれに触れると……。
パリィン! と巨大水晶すらも破壊して見せた。
「す、すごい! この水晶は竜の魔力量すら測ると言われているもの! それを壊すなんて……なんて魔力量なんでしょう!」
受付嬢が仮面の男に期待のまなざしを向ける。
「おいなんかすげえ新人が入ってきたみたいだな」
「ああ、つい最近入った自称勇者の大したことの無いゴミとは大違いだな!」
ぎりっ、とマケーヌは歯がみする。
自分が一目惚れした美少女を連れ、莫大な量の魔力を持ち、みんなから注目を浴びる。
そんなあの仮面の新人が、羨ましくて仕方なかった。
「くそっ! なんなんだよ……あの仮面の男はよぉ!」
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