82.勇者、かつての仲間を呼び戻そうとするがもう遅い
あくる日、勇者マケーヌは、再び森を訪れた。
先日の魔物と人間の子供の通う学校へと立ち寄る。
「ガキをひとり拉致って、ギルドに提出してやる。そうすりゃ愚鈍な冒険者ども、僕の言っていることがわかるはず!」
マケーヌが学校へと立ち入ろうとした、そのときだ。
「止まれ! ここは魔王国立学校の敷地内! 許可なく立ち入ることを禁止する!」
フォン、と転移してきたのは、良く見知った顔だった。
「セ、セイン!」
「なんだ、マケーヌ。おまえか」
元勇者パーティの聖騎士の男、セインだった。
「おま、こんなところで何してるんだよ!?」
「なにって、子供たちに剣術を教えてるんだ」
「なっ!? 剣だと!」
「そうさ。ここ魔王国立学校では、人も魔物もだれもが平等に教育を受けることができる。素晴らしいところだよ」
信じられない……とマケーヌが愕然とする。
「おまえ……洗脳されてるんだな。可哀想に」
「は? どうしたマケーヌ。急に……?」
マケーヌは心底呆れたような顔で言う。
「魔法で操られてるんだろ。人間と魔物が平等なわけないだろ。馬鹿なこと言うなよ」
本心から、この元勇者はそう思っていた。
人間以外を見下し、魔物は理性なき獣だと。
「……まあ、おまえに理解してもらえるとは思ってなかったよ。ところで、何しに来たんだ?」
「そうだセイン、目を覚まして協力してくれ」
「協力……?」
「ああ、おまえは洗脳されていて気づいてないようだけど、ここは危険な施設だ。ガキのくせに無詠唱魔法も極大魔法も使ってくる。魔王は少年兵を作り出して、人間たちを襲わせようとしてるんだよ!」
マケーヌの解釈を聞いて、セインはため息をつく。
「……おまえってやつは、何にもわかっていないんだな」
「何ゴチャゴチャ言ってやがる! 目を覚ませセイン! おまえがやっているのは犯罪の片棒を担ごうとしてるんだ!」
勇者の必死の訴えがあれば、魔王の洗脳なんて解けると思っていた。
……もちろん、洗脳なんてされていない。
「マケーヌ、聞いてくれ。魔王殿はこういっていた。人も魔物も同じ教室で、仲良く勉強できれば、2種族の間にある壁を少しでも薄くすることができるだろう。そうすれば、争いのない世界に近づいていくかもしれないと、そう考えているのだ」
「だまれ! 魔物は害獣だ! 人間と仲良くなんてできるわけがない! おまえは馬鹿だからころっと魔王の口車に乗ってしまっているだけだ!」
さすがのセインも、マケーヌの言葉に腹を立てた。
「……おまえの主張は理解した。だがおれは魔王殿の味方だ。帰ってくれ」
「うるせええ! 部下の癖に生意気なんだ! てめえは勇者の言うことを聞いてりゃいいんだよバカがぁ!」
殴ってでも言うことを聞かせようと、マケーヌは拳を握りしめる。
「戻ってこいセイン! 僕のために働け……ふげぇええええ!」
セインに殴り飛ばされ、どさり、とマケーヌは倒れる。
「な、なにするんだ!」
「すまない、出て行ってくれ」
「なっ!? おいなんだよその態度! 僕はお前の上司だぞ!」
「おまえは、もうおれたちとは関係ない。おれの上司は魔王殿だ」
「目を覚ませセイン! おまえは」
「いい加減にしろ!」
ぴしゃりと叱りつけると、マケーヌは体を委縮させる。
「おれはおまえのもとに戻るつもりはない! ここで子供たちに剣を教えることを生きがいにしてるんだ! 帰れ!」
「そ、そんな……」
あわよくば彼を配下に加えて、冒険者パーティを組んで、こきつかってやろうと思っていたのだが。
その計画が頓挫してしまい、マケーヌは焦る。
「ば、ばかな考えはよせ! セイン! 今なら」
「……もういい加減にしないと、叩き切るぞ」
セインのただならぬ雰囲気に気圧され、マケーヌはたじろぐ。
「二度とここを訪れるな。元仲間とはいえ容赦しないぞ」
「く、くそっ! お、覚えてろよくそぉ!」
【※読者の皆さまへ とても大切なお願い】
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと勇者も『ざまぁ』されろ!」
と思っていただけたら下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に変えて、作品への応援おねがいいたします!
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!
ポイントは今後の更新継続のとても大きな励みになりますので、なにとぞ、ご協力をお願いします!