80.勇者、弱体化し馬鹿にされる
それはジークが鬼の島へ渡る、少し前にまで時間が遡る。
追放された勇者マケーヌ。
彼は現在……冒険者となっていた。
国外のとある街の、冒険者ギルドにて。
マケーヌはクエストを終えて、受付へと向かう。
「お帰りなさいませマケーヌ様。依頼の品はどうなりましたか?」
受付嬢がにこやかに言う。
ふるふると、マケーヌは肩をふるわせると、腰の皮袋をたたきつける。
「この僕に、こんなザコのやるような仕事を押しつけやがって! ふざけるんじゃあねえ!」
袋の中には薬草がちびちびと入っていた。
受付嬢は袋を受け取り言う。
「しかしマケーヌ様のランクは最下位のFランクです。これくらいの依頼が妥当かと」
「そうだぜ兄ちゃん」
先輩冒険者が、マケーヌに近づいて、肩をぽんと叩く。
「気持ちはよーくわかるぜ。おれも駆け出しの時は気持ちが焦ってもっとランクの高い依頼を受けたがった。しかしそれは間違いだった。なぜならな……」
と経験談を語る彼の手を、バシッ! とマケーヌは振り払う。
「おまえのような無能と僕を一緒にするな、カスが!」
フンッ! と小馬鹿にしたように、マケーヌが鼻を鳴らす。
「僕は選ばれた存在なんだ、おまえのようなモブキャラとは違うんだよ!」
先輩冒険者は、不愉快そうに顔をしかめる。
「あーそうかい。そりゃ失礼したよ。お嬢さん、こいつにそろそろ討伐クエスト任せてみたらどうだい?」
「そーだよさっさと寄越せよブス女!」
受付嬢はため息をつきながら、スライム討伐依頼をマケーヌに発注する。
「スライムだぁ? こんなザコワンパンで倒せるぞ。ふざけんな馬鹿にしてるのかぁ!?」
「あーもういいからさっさと行って倒して来いよ。それなら文句ないからさ」
先輩冒険者が呆れたように言う。
「てめーに言われなくてもそのつもりだ。カスが」
マケーヌは依頼書を持ってギルドを後にする。
郊外の草原を不機嫌な顔で歩く。
「ったく、どうして僕がこんな下っ端の仕事をしないといけないんだよ……」
マケーヌは現在、勇者としての強さを失っている。
ジークが勇者認定された瞬間、彼の体から力が抜けていったのだ。
現在のマケーヌはゴブリンにも劣る弱者である。
だがあのときは調子が悪かっただけだといって、自分の非を認めていなかった。
「こんな簡単な仕事、ちゃっちゃとこなしてどんどんランク上げて行ってやる。見てろよ僕を追い出したバカどもを見返してやるからぁ!」
そんなふうに街道を歩いていたそのときだった。
「ぴぎー!」
子供の顔くらいの大きさのスライム達が、飛び跳ねている。
「はぁ~…………ったく、こんなバカでもできる仕事を、どうして僕がやらんといけないんだろうか。ま、けどいいや」
しゃりん、と鉄の剣を抜いて、マケーヌは構える。
「大人しく僕の金になりやがれザコどもが……おらぁ!」
スライムに斬りかかろうとするが、その軟質の体に刃が弾かれる。
「なっ!? どうして……ぐぇえええ!」
スライムからの反撃を腹にくらい、その場に崩れ落ちる。
「いてええ……いてえよぉ……」
このモンスター達は、魔王による始祖の呪いが解けている魔物達だ。
だが始祖云々を信じていないものが大半である。
スライムも普段は穏やかだが、こうして誰かに殺されそうになると、反撃してくる。
どがっ! ぼぐっ! と何度もスライムに体を痛めつけられる。
「くそっ! やめ、やめろぉおおお……!」
ややあって。
ボロボロになりながらも、マケーヌはギルドへと帰還した。
「おや、マケーヌさん。討伐依頼は、どうでしたか?」
「…………」
ぎりっ、と歯がみする。
「……クエスト破棄してくれ」
「え…………? ま、負けたんですかっ? スライムごときに?」
ざわ……と周囲が騒然とする。
「ぷっ! ぷははははっ! そうか負け犬くん負けちゃったのかぁ~」
先程馬鹿にしたはずの先輩冒険者が、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「そっかそっか。あれだけイキり散らしていたくせに、ぷすすっ、スライム程度に負けるなんてねぇ……!」
周囲の人間達が、みなマケーヌを見てクスクス、げらげらと笑う。
「わ、笑うなぁ……! 笑うなよぉ……!」
「いやはやたいした実力だ。スライムに負ける程度だもんなぁ……!」
「「「ぎゃははははっ!」」」
冒険者達に馬鹿にされたマケーヌは、ギルドを飛び出て走る。
「ちくしょう! くそっ! これも全部ジークのせいだ! くそくそくそぉおおおお!」
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