79.土地を開拓する
ある日のこと。
俺は魔王の国の外れへとやってきていた。
『ジーク、なにするのこんなとこで？』
地竜のちーちゃんに乗ってやってきたのは、ひび割れた地面がどこまでも続く荒野だ。
「使って無い土地を農地にしようと思ってな」
地面に触れると、カサカサとした栄養のない土地が広がっている。
『農地？ なんでまた』
「最近大所帯になってきただろ。食糧問題が発生する前に手を打っておこうと思ってな」
『なるほど……でもジーク。こんな痩せ細った土地じゃ、何も育たないわよ？』
「問題ないさ」
俺は地面に触れて、神の手を発動させる。
すべてを癒やし、傷付いたものを元に戻す最強の治癒術だ。
ずぉおおおお……！ とあっという間に土が潤い、草が生え……。
『な、なにこれぇえええええ！？ 一瞬でジャングルじゃない！』
見渡す限りの荒野から一転して、青々とした木々の生い茂る大森林へと変わった。
「単に土地を沃野に変えるだけのつもりだったんだが……」
『すごいわ、見て！ 果実のなる木がこんなにたくさん！』
ちーちゃんが顔を近づけたそれには、バナナがもっさりとなっていた。
『おいしい！ こんなおいしいの生まれて初めて食べたかも！』
あぐあぐと、ちーちゃんがバナナを皮ごと食べる。
『ジークが作ったからかしら？ すっごい美味しい！ 高く売れるわよ絶対！』
「まあそれは追々だな」
俺はちーちゃんに乗ってジャングルの中を探索する。
『いろんな果実、わっ、野菜まであるわ。種をまいた訳じゃないのに実るなんて……』
どういう理屈か、畑までも森の中には完備されていた。
『いつの間に耕したの？』
「さ、さぁ……畑とかあればいいなって思ったら、なんかできてたな」
『なるほど……森の創造主たるジークの願いに、この森が応えたのね。さすがジーク！』
願いに応えるなんて、まるで森に意思があるようではないか。
俺は黒々とした畑の前に立ち、今後のことを考える。
「畑は確保できた。あとは種とか植えてみるか」
いったん魔王国に戻り、植物の種をいくつか持ってきた、のだが。
「なんじゃ、こりゃ……」
『あ！ ジークすごいわよこれ！ もう野菜がこんなに！』
畑一面には、みずみずしい野菜や果物が生い茂っていた。
「いや……どうなってんだ？ 種まいてないんだぞ？」
『きっと森がジークのために野菜を作ったのね。さすがジークだわ！』
「いや……さすがにどういうことだよ。確かに野菜や果物があれば飢えに困ることはないかなーって思ってたけどさ」
俺の意思をくみ上げて、この現象が自動で引き起きたとは考えにくい。
と、そのときだった。
「ん？ なんだ……？」
生い茂る野菜を、誰かがかじっていた。
最初は、魔物の誰かかと思った。
だがどうにも違う。
『どうしたの、ジーク？』
「いや、なんかいるなって」
ちーちゃんとともに近づいてみると、手のひらサイズの、緑色をした女の子がいた。
『何見てるのジーク？』
「いや、この子だけど……え、見えないのか？」
こくこく、とちーちゃんがうなずく。
緑色の女の子は、微妙に透けており、さらに輝いていた。
「だれだ、きみは？」
びくんっ！ と女の子が俺に気づいて体を萎縮させる。
ぶるぶると震える彼女に、俺は両手を挙げていう。
「君に危害を加える気はないよ。安心してくれ」
女の子は恐る恐る俺に近づいてきて、ぴたっ、と足にすがりつく。
「こんにちは。俺はジーク。この土地の魔王だ」
俺は握手しようと、しゃがみ込んで手を差し伸べる。
小さな女の子は笑顔になると、俺の指をきゅっと握った。
『さっきから何をしているのジーク？』
「いや、なんか透明な女の子がいてさ……」
女の子の手には、大きな植物の葉っぱが握られていた。
彼女がそれを振ると、にょきにょき！ とまた新しい畑と野菜類が出てきた。
『ま、まさかジーク……土地神が見えるの？』
その土地に留まり、霊的なエネルギーを発生させる神のことだ。
土地神の力が強いほど栄えるという。
「何もない荒野に土地神なんているのか？」
『……たぶん、ジークがこの森を作り上げたことで、土地神もまた生み出したのね』
「ま、マジか……」
土地を再生するだけのつもりが、なんと土地神まで作ってしまうとは。
『土地神はこの地の意思でもある。よほどジークのことが好きみたいね、その子。神に好かれるなんてさすがだわ』
すりすり、と緑色の土地神が俺に頬ずりしてくる。
「ま、まあ……ともあれこれで食料は大丈夫だな」
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