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70.海を渡り鬼の島へ



 魔王国を訪れたのは、鬼の姫とその従者だった。


 俺はふたりとともに、火竜に乗って、海を渡っていた。


「それで姫様」

「魔王様、【サクラ】とお呼びください。こっちは【シズル】です」


「じゃあサクラ姫。今、おまえの国ってどうヤバいんだ?」


 サクラ曰く、彼女たちの暮らす国では内乱が起きているそうだ。


「家臣のひとりが悪魔と結託し、頭首であるわたしの父を殺したのです」


「内乱に悪魔……ね」


 この世界には人間以外の種族が多数いる。

 悪魔とは、人間や魔族をも超越したとてつもない力を持った集団と聞く。


「現在は兄が軍を率いて、裏切り者と戦っております。ですが悪魔の軍勢は思った以上に強力で、このままでは一族が滅んでしまいます」


 そこで魔王である俺に助力を願い出てきた、というわけか。


「おい魔王」

「なんだ、シズル?」


 さっきから不機嫌そうにしていた、従者のシズルが俺を見て言う。


「なぜ貴様ひとりだけなのだ。相手は悪魔の軍勢だぞ?」


「俺ひとりじゃ不安か?」


「当たり前だ。あたしは貴様の実力を認めたわけじゃない。一族の命運が掛かっているのだ。なぜもっと兵を動員してくれぬ!」


「シズル! 失礼ですよ!」


「あー、良いって良いって」


 俺がどれくらいの強さなのか、シズルは直接見たわけじゃないからな。


 援軍がひとりだけ、となると心細く思うのは致し方ない。


 けれど俺としては、他のヤツらを連れて行ってケガでもされる方が嫌だ。


『あ! 兄貴、見てくださいっす! 大雨っすよ!』


 海上にて。

 暗雲が全域にわたって立ちこめており、雷雨を巻き起こしていた。


『この嵐の中じゃ飛べないっす。どうします、兄貴?』


「大丈夫だ」


 俺は火竜の頭の上に立つ。


「な、何をするのだ貴様は?」

「空を元に戻す」


「ば、バカなことを言うな!? 相手は嵐だぞ!? 一個人がどうにかできる問題じゃない!」


 俺は手を空に掲げる。


【神の手】を発動。

 状態異常回復を応用し、天候を元の状態へと戻す。


 すると立ちこめていた雷雲は、みるみるうちにかき消えていく。


 やがて雲1つない青空が広がっていた。


「し、信じられない……」


 ぺたん……とシズルが腰を抜かし、声を震わせる。


「て、天候を操った……だと!?」

「すごいです魔王様! あの大嵐をおさめてみせるなんて!」


 シズルはおののき、一方でサクラは俺にキラキラとした目を向ける。


「ちょっと手間取ったな。俺が身体強化の魔法をかける。急げるか?」


『もちろんっす!』


 俺は火竜の背中に触れて、神の手を発動。

 細胞を活性化させ、筋力を増強させる。


『元気百倍! いくっすよー!』


 火竜は翼を大きく広げて、今までの数十倍の速さで飛翔する。


「なんだこの速さはぁああああああああああ!」


 結界魔法を使って、サクラたちが吹き飛ばされないようにする。


 ややあって、島国の上空へとやってきた。

「し、信じられない……船で半月もかかる距離を、ものの数時間で到着するなんて……」


「これで少しは信じてくれたか?」


 シズルは俺の前で膝をついて、深々と頭を下げる。


「無礼な態度をとってしまい、誠に申し訳ございませんでした! あなた様は魔王の名にふさわしい実力の持ち主でございます! どうか、我らをお救いください!」

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★1巻11/15発売★



https://26847.mitemin.net/i778881/
― 新着の感想 ―
[気になる点] シズルさん手首ドリルなの?
[気になる点] シズルさん、火竜が手下っていう時点で気づけよ。
[一言] 魔王:わりぃ~ごぉはぁ、いねぇ~がぁ~~~
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