67.大司教、剥製にした獣たちに復讐される
魔王ジークの手によって、大司教率いる軍隊は壊滅した。
大司教グブツは騎士達を放り出して、ひとり神聖皇国まで帰ってきていた。
「くそくそくそぉ! 冗談じゃない! わたくしは逃げるぞぉ!」
グブツは屋敷にあった金品を、何でも入るマジック袋に詰め込んでいた。
彼の両腕はジークによって切断されたが、念じるだけで動かせる義手をはめていた。
「このまま敗戦の報告を皇帝にしたら、わたくしは殺されてしまう……!」
ジークからもう一度だけチャンスを与えられていた。
和平の話し合いをしたいと。
「早晩騎士達が戻ってくれば、皇帝の耳に負けたことが知らされるだろう。さすれば皇帝もさすがに【13使徒】を動かすに違いない」
13使徒、それは神聖皇国の所有する最強の13人の天導騎士たち。
あまりに強力無比かつ残忍な性格をしているために、普段は騎士として城に常駐している。
「だが今回の知らせを聞けばさすがに動員がくるだろう。くく……! 魔王め! 貴様の命もここまでだぁ! ざまぁ見やがれ! わたくしは安全なところで、魔王国が滅ぼされた知らせを聞いて高笑いしてやるわ! あーっはっはっはぁ!」
……と、大司教が笑っていられたのは、ここまでだった。
「……そんなことだろうと思ってたよ」
「なっ!? ま、魔王ジークぅうう!?」
大司教の寝室の片隅に、魔王が佇立していた。
「な、なぜ!? 皇国の神聖結界は許可のない人間を決して入れることのない絶対不可侵の防壁なのに!」
「あんなペラペラな結界、簡単に入って来られたよ」
「そ、そんな……」
グブツは額から大量の汗を流す。
「おまえってやつは……チャンスを与えてやったのによ。どうして無下にするんだよ」
「こ、殺すのか!? や、やってみろ! ここは敵陣のど真ん中だぞぉ! 騒ぎを起こしてみろぉ! すぐに騎士達がすっとんできて……」
「それで?」
ジークの目に恐れはなかった。
まるで、皇国など恐るるに足らず、とでも思っている様子だった。
「まあいい。別にケンカしにきたわけじゃない」
「ゆ、許してくれるのか……?」
ジークは部屋の中を見回す。
「この剥製たちは、おまえが作ったのか?」
部屋の中には、美しい獣たちの剥製が置いてある。
グブツが生涯をかけて作り上げた芸術品達だ。
「瓜坊の剥製すらあるじゃないか。……まだ子供なのに、可哀想に」
ぽん、とジークが触れる。
「ここにある剥製達は、みんな怒っているよ。おまえに、我欲を満たすために理不尽に殺されて」
「ふ、ふんっ! 獣を殺してなにが悪い! 猟師だって生きるために山の獣を狩るではないか! それと何が違う!?」
ジークは冷たい目でグブツを見据える。
あまりの恐怖で、大司教とは思えないほど情けない悲鳴を上げてしまう。
「てめえのはただ自分の欲望を満たすためだけの最低な行為だ。生きるために命をいただいている、猟師たちと一緒にするな」
物言わぬ獣たちを見回し、ジークが言う。
「こいつらに謝れ。じゃないと大変なことになるぞ」
「はんっ! なぜ畜生ごときに謝罪せねばならぬのだぁ! このバカどもはもうとっくに死んでるのだぞぉ!」
「さて、どうかな」
そのときだった。
ドンッ……! と大司教のお腹に衝撃を感じた。
「がはっ! な、なんだぁ~……こ、こやつは!」
自分にタックルをしたのは、剥製だったはずの瓜坊だ。
「ど、どうなっている!? こ、こいつらは死んだはずだぞ!」
「俺が蘇生させた」
「そ、蘇生だとぉおお! そ、そんな……神の奇跡のようなマネが、貴様できるというのかぁ!」
もっともジークがしたのは肉体の再生、および死んだ獣の無念をそこへ憑依させただけだ。
肉体が剥製として残っていたからこそできた芸当。
本当にゼロから死者を蘇生させたわけではない。
だとしても、人間業ではなかった。
「皇帝に挨拶をしてから、俺はこいつらを連れて帰る」
ジークは部屋のドアを開けて、外に出る。
「ぐるぅうう!」「ふしゃー!」「がうがうっ!」
理不尽に命を取られた動物たちは、怒りの表情で、グブツをにらみつけている。
「な、なんだよぉ!」
「おまえに復讐したいんだろ?」
にじり寄ってくるのは、巨大熊や虎など、獰猛な野生動物たち。
戦闘力を持たぬ大司教グブツでは、とても太刀打ちできない。
「た、助けて……! 助けてくれぇえええジークぅうううう!」
だがジークは一瞥することもなく、部屋を出て行く。
「ごめんなさい! 謝るから! お願いだから! この動物たちを大人しくさせてください! お願いします! おねがいしますぅううううう!」
「無理だ。俺が操っているわけじゃない。おまえへ復讐しようとするのは、獣たちの意思。おまえが軽んじた物だ」
獣たちがいっせいに、グブツに襲いかかってくる。
足に、肩に、脇腹に、獣たちが殺された恨みを晴らすべく喰みついてくる。
「戻って来てくれジークぅううう! 全部最初からやりなおそう! もう剥製も作りません! もう獣の命を軽んじません! 反省してますう! だからぁ! だからあぁああああ!」
だが、ジークは帰ってこない。
もう、遅かった。
「うぎゃぁああああああああ…………!」
……その後自分が命を奪った動物たちの手によって、グブツは命を奪われたのだった。
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