64.大司教グブツ、来訪
数日後、魔王城に神聖皇国から大司教がやってきた。
「お初にお目に掛かりまする。わたくし神聖皇国の大司教、【グブツ・フールマン】と申しまする」
大司教グブツは、一言で言えば【ガマガエル】みたいなヤツだった。
子供のように背は低く、でっぷりと突き出た腹はオークを彷彿とさせ、平たい顔にはブツブツとした出来物があった。
『おにーちゃん……こいつきもちわるいよぉう~』
今日は神獣ハクが遊びに来ており、俺の肩の上に乗っている。
神竜シアもまた逆側の肩乗っている。
「初めまして、この国の王ジークと」
「おお! すばらっしーでありまするなぁ!」
俺が挨拶する前に、グブツが近づいてくる。
俺……ではなく、肩に乗っているハクとシアを、目を輝かせて見やる。
『……怖い。……こいつ』
シアが震えていたので、頭をなで、服の中に入れる。
『こんにゃろー! シアをいじめるなー!』
ハクが吠えるが、しかしグブツには声が聞こえていない。
「いやいやいや、素晴らしい毛並みに鱗~……さぞ映えることでしょうなぁ」
どうやら獣マニアみたいだなこいつ。
話が通じると良いんだが……。。
「ど、どうも。そ、それでグブツ殿。本題に入ろう」
現在、皇国の騎士が領土を侵犯し、俺たちの国民を傷つけた罪で捕虜として捕らえている。
俺は彼らを無条件で返還し、今回のことは不問にすると答えた。
「寛大なお心遣いに大変感謝もうしまするぅ。して……われらに何をお望みかなぁ?」
「話が早くて助かる。端的に言おう。和平条約を結びたい」
「ほう! 和平とな」
「正直あんたらとやり合う気はない。俺たちは平和に暮らせればそれでいいんだ」
魔力結晶などの資源を提供するかわりに、魔物達に一切手を出さないことを条件として提示した。
「わかりました、それの条件を飲みましょうぅ」
い、嫌にあっさりと納得したな。
なんだ、結構揉めると思っていたのだが、杞憂だったか。
「感謝します。これで国民も喜ぶと思います」
「ええ、そうですかぁ。では、ついでにわたくしめも喜ばせてはいただけないでしょうかぁ?」
「歓迎の宴のことか?」
「そうではなくぅ、わたくしは【それ】を譲って欲しいのでございますよぉ」
大司教が指さしたのは、肩に乗っている神獣ハクだった。
「……すまん、それはできない。大切な友人の、大切な娘さんなんだ」
「おやぁ、では先ほどの青い竜でもよいですぞぉ~? 譲ってくれませんかねぇ。もちろん高く、買い取りますよぉ」
「……だから、彼女も同じ大事な子なんです。なんですか、あんた。さっきからそれとか買うとか、まるで物みたいに」
きょとんとした顔で、グブツが言う。
「畜生なんて物のようなものではありませぬか」
「………………は?」
「わたくしはですねぇ、獣の【剥製】を蒐集しているのですよぉ」
剥製、つまり獣の死体をつかった置物のことだ。
「白いのと青い獣、どちらも素晴らしい! お譲りいただければ先ほどの条件で進めさせていただきますがぁ?」
「……それは断る。他の条件にしてくれ。魔力結晶の提供量をもっと多くしても良い」
「われらが皇国は【とある理由で】ここほどではありませんが資源が豊富です。魔力結晶よりその獣の剥製の方が」
「ふざけるな!」
外交の場だというのに、俺は声を荒らげてしまった。
「獣を何だと思っている!? こいつらにも命があって意思もあるんだぞ」
「ふぅ~……獣にそんな上等な物があるわけがないではないですかぁ~。ではその2体が駄目なら、他の魔物でもいいので、珍しい物を定期的に提供してくだされば条件を飲みましょう」
この……! と俺が拳を振り上げようとしたそのときだった。
「ちょっと待ちな、先生」
俺達の前に、黄金の髪の美丈夫が現れる。
「し、神竜王様ぁ!?」
グブツ大司教が目を剥いて、神竜王を見やる。
「ど、どこにいかれていたのですか! 四方探しましたぞ!」
「どういうことだ?」
ふぅ、と神竜王はため息をつく。
「オレは神聖皇国の【国獣】として奉られているのだ。親の代からそういう取り決めでな、仕方なく」
なるほど、獣人国で言うところの神獣王ソフィア的なポジションだったのか。
確かに神獣は国に利益をもたらす存在として扱われているところも多いと聞く。
「神竜王様、こんなところで油を売っていないで、早く国へお戻りくだい」
「断る」
「こ、断るぅ!?」
グブツが目を剥いて叫ぶ。
「な、なにゆえですか!?」
「貴様は2つ、重大な罪を犯したからだ。1つはわが娘シアを剥製にするなどとのたまったこと」
「なっ!? さ、さっきのみすぼらしい青い竜が……美しい黄金の神竜王さまの王女であると!?」
「2つ。……オレの大事な先生に、不快な思いをさせたからだ」
神竜王は体から殺気をただよわせると、グブツはその場にぺたりと尻餅をつく。
「良い機会だ。オレはもう皇国の国獣をやめる」
「なっ!? なぜでございまするかぁ!」
「オレはもう盟友ジークとともに、この国を繁栄させていくと決めたからだ」
「な、なんだとぉおおおお!?」
神竜王は笑って、俺の肩を抱く。
「そ、そんなのゆ、許せるかぁ!」
「なぜてめえの許可がいる? オレたちは皇国に飼われていた畜生じゃない。てめえらは勝手にそう思っていたようだが」
ニッ、と神竜王は俺に笑いかける。
「だがジークという素晴らしい獣ノ医師は違う。どんな獣であろうと、一個人として尊重してくれる。てめえのところとは大違いだ」
グブツが大慌てで言う。
「あ、あなた様が出て行かれたら我が国はどうなります!? 瑞獣がいなくなれば国力は低下してしまいまするぅ!」
「知るか。だいたいてめえは前から気にくわなかった。今回娘を剥製にするとかアホなことしたことでもう我慢できなくなった。妃ともどもこの国に移り住むことにする」
「そ、そんなことされては! わ、わたくしのせいで神竜王を失ったと皇帝から叱責されるではないですかぁ!」
「知るか。お仲間連れてさっさと消えろ」
ぐぬぬぬっ、と歯がみすると、グブツが俺をにらみつける。
「こ、こうなったら力尽くで!」
「やめろ」
俺は聖剣をグブツの首筋に突き立てる。
「ひっ……! い、いつの間に!?」
「ほぅ、結構距離あったのに、それを一瞬で詰めるなんて。この神竜王でも動きが目で追えなかったぞ、さすが先生だ!」
「消えろ。俺の大事な友人に、手を出すな」
グブツはきびすを返し、走って逃げていく。
「名前は覚えたぞ魔王ジーク! どうなっても知らんからなぁ!」
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