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60.宰相、追放の報いを受ける



 ジークが独立建国をし、取り残された国王は唯一の信頼できる部下を失った。


「あ、あひゃ……あひゃひゃひゃひゃ!」


 荒廃した王都の街にて、国王は地面に倒れ、狂ったように笑い続ける。


 何もかもを失い、笑うしかない国王を、宰相が見下していう。


「はっ! いい気味だ。わたくしを馬鹿にし、虐げ続けた報いだ。そのままくたばればーか!」


 そのときだった。


「終わったか?」


 宰相に近づいてきたのは、長身白髪の男だ。

 切れ長の赤い目と、赤銅色の肌が特徴的である。


「これはこれは【ルゥザー】殿下!」


 宰相は態度を一変させ、こびへつらいながら、ルゥザーへと近づいていく。


 ルゥザーの背後には、多数の魔族たちが控えている。

 そのなかには指揮官のジャマーの姿があった。


「あれが元国王か。ふんっ! 国を治めていた人間とは思えぬほど、無様だな」


「ええまったくもってそのとおりでございますぅ! あなた様と同じ、王に連なるものとはとてもとても!」


 ぴくっ、とルゥザーはこめかみを不愉快そうに動かす。

 だがそれに気づいていない宰相は、へらへらと笑いながら言う。


「有力貴族を裏切らせ、使えぬ人間たちを魔族側にエサとして提供したのです! これで約束通り! 【新生魔王軍】に加えていただけるのですよねぇ!」


 魔王子ルゥザーをトップに、指揮官ジャマーと、そのほか旧魔王の考え方に反発した魔族たち。


 そして【彼】を加えた、ジークに敵対するものたちを、彼らは【新生魔王軍】と自称した。


「貴様の働きに褒美を与えよう」

「ははー! ありがたき幸せー!」


 これで安泰だ! と宰相は邪悪に笑う。

 こんな滅びた国にさっさと見切りをつけ、大きな組織に属する。


 それが賢いものの選択なのだ! ……と彼が調子乗っていられたのは、ここまでだった。


 ガンッ! と誰かに頭を殴られた。


「な、なにものだぁ!」


 そこにいたのは、元王国の商業ギルドの連中だった。


「見つけたぞ宰相……! よくも、ジークを追い出したなぁ!」


 商業ギルドの男たちは、みな血走った憎しみの眼で、宰相を見て言う。


「な、なにをする貴様!」

「うるせえ! 聞いたぞ、てめえがジークが出て行くきっかけを作ったっていうじゃあねえか!」


 確かに、国王に最初にジーク追放を提案したのは宰相。

 彼がいるせいで余計な金がかかると思い、リストラするよう進言したのだ。


「だ、だからなんだ! 何を怒ってるのだ貴様らぁ!」


「ジークがいなくなったせいで取扱っている食肉の品質が低下し、売れ残ってこっちは大損だ!」


「馬が言うこと聞かなくなったのも、ジークがいなくなったせいって聞いたぞ!」


「荷物を運べなくなって困っていたんだ! どれだけ大損したと思っている!?」


 動物たちに好かれていた、ジーク・ベタリナリという獣ノ医師。


 彼がいたからこそ、王国の動物たちは言うことをおとなしく聞いていた。


 ……しかしジークがいなくなったことで、徐々に言うことを聞かなくなっていた。


 そして今回こうして王国から完全に絶縁したことで……動物たちも完全に制御できなくなった。


 この世界の主な移動手段が馬である以上、その馬から嫌われた王国の商人たちの経済的ダメージは大きい。


 当然、その矛先はジークを追い出したものに向く。

 すなわち……宰相へと。


「お、追い出したのはわ、わたくしじゃあない! あの国王がすべての元凶だ!」


 廃人同然となった国王を指さし、宰相が言う。

 だが商人たちは首をかしげる。


「なんだあの浮浪者は?」


 そう、あまりに見た目が変わりすぎて、国王と認識されなかったのである。


 一方で宰相は、そうそうに魔族側に寝返り、私腹をたっぷり肥やした結果、見た目に変化はまるでない。


「国はどう責任を取ってくれるんだ? なぁ?」


「おまえらのせいなんだから、当然払ってくれるよなぁ、賠償金!」


 無論崩壊した王国に、賠償するだけの金は残されていない。


「払えないのかぁ!? ああ!?」


 商人たちの鬼気迫る表情に、宰相は気圧される。


「ま、待て! 払おう!」


 にぃ、と宰相が笑う。


「このルゥザー様が、貴様らの負債をすべて払ってくれようぞ! ね! ルゥザー様!」


 しかし、その場にいたはずの魔族たちは、跡形もなく消えていたのだ。


「なっ!? ど、どこにおられるのですか! ルゥザー様ぁああ!」


 商人たちの怒りは収まることなく、その手に持ったこん棒で、宰相を殴る。


「や、やめろ! 払う! 魔族どもが払ってくれる! だから……がっ!」


「ふざけんな!」「魔族がどうして人間に金を払うんだよ!」「嘘も大概にしろ!」


 負債が返ってこないことを知り、怒り狂った商人たちが、憂さ晴らしに殴りつける。


「や、やめ……やめてくれぇえ……」


 だが彼らの怒りは留まることを知らない。

 

「た、たすけ……たすけてください……ルゥザー様ぁ~……」


 唯一の寄りどころであったはずの魔王子、および新生魔王軍は姿を見せない。


「なぜぇ~……わたくしは、貴方様のためにぃ~……」

『貴様はもう用済みだ。じゃあな薄汚い売国奴。そのままみじめに死ぬが良い』


 脳内に響いた魔王子の声を聴き、宰相は理解した。

 自分は、利用されたのだと。


「た、たすけ……たすけてぇ~……陛下ぁ……」


 残された最後の希望は、今まさに、自分が心を折ったばかり。


 少し離れたところで、うつろな目をしながら、いずこかへと立ち去っていく。


「まって……まってぇ~……」


 ……その後、負傷し動けない宰相は、この寒さの中、誰にも助けてもらえず、惨めさに泣くのだった。

【※読者の皆さまへ とても大切なお願い】


「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっともっと国王たち『ざまぁ』されろ!」


と思っていただけたら下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に変えて、作品への応援おねがいいたします!


面白かったら星5つ、

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★1巻11/15発売★



https://26847.mitemin.net/i778881/
― 新着の感想 ―
[一言] 国王の有り様を見て、黒澤明監督の映画「乱」の一文字秀虎を連想したのは自分だけでしょうか?
[一言] 前話で宰相だけ生き残り?と思ったけど 今話で納得です。
[一言] 商人達もジークの国や他の国に行けば負債を消せるくらい儲けれると思うんだけどな
感想一覧
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