55.勇者、追放される
ジークと勇者パーティとの戦闘の、数十分後。
「すまない、ジーク殿。私の治療までしてくださって」
聖騎士の青年が、ジークに頭を下げる。
先ほどの戦闘でケガを負ったのは彼だけだった。
と言ってもジークは手を抜いていたので、致命傷には至らなかったが。
「私は【セイン・ガルド】。このパーティで聖騎士をしている。ジーク殿、これからのことについて話したい」
「これから?」
聖騎士セインはうなずく。
「私たちとともに国王のもとへ向かって欲しい。今回の顛末を報告したいのだ」
今回の魔王討伐は、確かに少々複雑な内容を含んでいる。
セインたち勇者の口から語るより、事情をよく知る人物が報告した方が、真実が伝わると思ったのだ。
「…………」
「どうした、ジーク殿」
「いや……わかった。それで魔王達が平和に暮らせるなら」
ジークとしては二度と国王の顔は見たくはなかった。
しかしこれも自分の責務、ということで腹をくくったのである。
「我も同行しよう」
「魔王……でもあんたは病み上がりだし」
「魔王自ら赴けば、説得力も増すであろう。それに今まで人間達に迷惑をかけたのは事実、謝って済む問題ではないが、謝罪したい」
セインは魔王の言葉にうなずく。
「それは助かる。私たちからも、魔王は敵ではないと口添えしよう。きちんと説明すれば、さすがに国王もバカじゃないだろうし、わかってくれるはず」
「そりゃ……どうだろうな」
ジークがやれやれ、とため息をつく。
「では方針も固まったことだし、王国へ……」
「ちょっと待ちなよ!」
今まで黙っていた勇者マケーヌが、口を開く。
「どうした、マケーヌ」
「黙って聞いてりゃよぉ! なんだ? 魔王は心を入れ替えましたってか? そりゃあ道理が通らねえだろうがよぉ!」
マケーヌは声を荒らげる。
一方で、セインは冷静に言う。
「おまえも聞いていただろう。魔王殿は始祖の呪いで仕方なく魔物を襲わせていたのだし、魔王軍を指揮していたのはジャマーという指揮官であって彼ではない」
「うるせえうるせえ! 話がごちゃごちゃしすぎてるんだよ!」
勇者は剣を抜いて、魔王にその切っ先を向ける。
「勇者が魔王をぶっ殺し、世界は平和になった! これが最もシンプルな回答じゃあねえか!」
「マケーヌ、よさないか!」
セインがたしなめるものの、マケーヌは駄々っ子のように首を振る。
「だいたい! 今のままじゃ手柄は全部ジークのものじゃあねえか!」
……そう、マケーヌが気に入っていないのは、そこだ。
真実を報告すれば、魔王の呪いを解き、世界を平和にしたのは、勇者ではなくジークとなってしまう。
「てめえら何仲良しこよししてるんだよ! 魔王は悪! それに加担するジークも悪! 全員たたっ切れば万事解決だろ!」
「マケーヌ! それでは何の解決にもならないぞ!」
「魔王もジークも殺せばよぉ、バカな国王も民も真実は知らねーんだから、勇者が世界を平和にしたってことでオールオッケーじゃあねえかぁ」
勇者にあるまじき邪悪な笑みを浮かべて、マケーヌが言う。
確かに始祖の呪いが解け、モンスター達は人を襲わなくなった。
だがそれはジークが呪いを解いたからだという真実を、皆は知らない。
勇者が魔王を殺した結果、としたほうが確かにシンプルなのは事実だ。
「それに魔王! てめえも被害者ぶってるけど結局てめーのせいで大勢の人間が苦しんだんだ! 責任を取るべきだろぉが!」
「……その通りだ。平和の礎のためならば、この命、喜んで差しだそう」
魔王は死ぬ覚悟がとっくにできていたのだ。
すっ……とその場で跪き、首を差し出す。
「ひゃはは! 死ねぇええええい!」
マケーヌが剣を振り下ろそうとした、そのときだ。
「いい加減にしろ」
パシッ、とジークが剣を掴み、マケーヌの暴挙を止めたのだ。
「黙って聞いてりゃ勝手なことばかり。結局おまえは俺に手柄を取られるのが気にくわないだけだろ?」
「ああそうだよ! 畜生係の分際で、勇者様の栄光のロードを邪魔するんじゃあねえ!」
マケーヌは剣を引き抜こうとするが、びくともしない。
まるで大樹に突き刺さった剣を抜こうとしているみたいだった。
「手柄なんてくれてやるよ。けど魔王を殺すな。死んだら罪を清算できない」
「うっせー! 殺す! 勇者は魔王を殺すもんだって、古今東西そう決まってるんだよぉ!」
マケーヌがジークに殴りかかろうとする。
彼は素早く動き、その腹に掌底をぶち込む。
「げはぁ……!」
体を【く】の字にして、その場に崩れ落ちる。
「ち、くしょぉ……なんだよその馬鹿力……いったい、どうして……?」
するとセインは、マケーヌに言う。
「勇者マケーヌ……いや、元、勇者よ。おまえをこのパーティから追放する」
「…………………………はえ?」
ぽかーんとするマケーヌに、セインは告げる。
「おまえの勇者らしからぬ言動の数々は見るに耐えん。今まで我慢していたがもう限界だ。パーティから抜けてくれ」
「ふ、ふざ、ふざけるなよぉ! このパーティのリーダーはボクだ! 勇者であるボク抜きで何勝手に決めてるんだよぉ!」
ふるふる、とセインは首を振る。
「おまえは勇者じゃない。その力を失っている」
「は………………?」
セインは鑑定スキルを使い、マケーヌのステータスウィンドウを可視化する。
そこに描かれているのは、凄まじく弱体化した能力値。
そして称号の部分には……勇者の文字がなくなっていた。
「う、うそ……だろぉ……」
「本当だ。事実ジーク殿が勇者しか使えない聖剣を使っていた。つまり、現勇者はジーク殿なのだ」
どさり、とマケーヌが腰を抜かす。
「うそだ……こんなの……間違ってる……」
「いいやほんとだ。魔王を生かす選択をした勇者ジーク殿に、我々はついていく」
残りのパーティメンバー達も、こくりとうなずいた。
「勇者パーティの総意だ。マケーヌ、おまえは出て行け」
ぎり、とマケーヌは歯がみする。
「くそ……くそくそくそくそぉおおお!」
マケーヌは立ち上がり、この場に居る全員を皆殺しにしようとする。
だが勇者の力がない以上、この戦力差では勝ち目がない。
「ジーク殿、どうか我らとともに来て欲しい。魔王を殺さず、世界を救う偉業をなした……真の勇者として」
セインを含めて、その場に居た全員が、ジークに頭を垂れた。
元勇者など眼中にない様子で。
「くそぉおおおおおおおお!」
圧倒的な敗北感とともに、マケーヌは悟る。
自分はもう勇者ではなく、パーティから追い出されたのだと。
【※読者の皆さまへ とても大切なお願い】
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっともっと国王たち『ざまぁ』されろ!」
と思っていただけたら下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に変えて、作品への応援おねがいいたします!
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!
ポイントは今後の更新継続のとても大きな励みになりますので、なにとぞ、ご協力をお願いします!