52.魔王の始祖の呪いを解く
俺の治療によって、魔王は正気を取り戻した。
「すまぬ、ジーク殿。まさかジャマーめ、城のほとんどの魔族を味方陣営に引き込んでいたとは……」
ジャマーは歯に仕込んでいた転移結晶を使って離脱した。
その後調べると、城にいたほとんどの有力魔族達は、みなジャマーの息がかかっていたという。
「でも、お父様が無事なら問題ないです。これで魔物達にかかっていた、人間を襲うという呪いは解けるのですよね?」
この世界のモンスターは、魔王の呪いが掛かっており、そのせいで人を襲う凶暴な存在になっている。
魔王がこうして正気に戻ったのだ、呪いを解除してもらえる……と思ったのだが。
「残念ながら、我ではどうにもできぬのだ」
「どうしてだ?」
魔王は腕をまくり、俺の前に差し出す。
「これは……入れ墨か?」
茨のような入れ墨が、魔王の右腕に描かれている。
「このような入れ墨が、我の体全身にまとわりついている。これは【始祖の呪い】という」
「しその、のろい……ですか?」
娘イレイナが首をかしげる。
魔王の娘でさえも聞いたことがないのならば、かなり重要な秘密なのだろうか。
「我らが始祖ベリアルの残した呪いだ。これがあるかぎり魔物達は正気を失う。そしてこの呪いは魔王の一族のものが、王位を継承すると同時に引き継がれていく」
「じゃあ……あんたの意思では、呪いを解くことができないのか?」
「すまぬ……始祖ベリアルは史上最強にして最凶と呼ばれた存在。彼の残した強力な呪印は、もう我らではどうすることもできないのだ……」
このままではこの先も、魔物達は苦しみ続ける。
そしてなにより、このままではイレイナに呪いが引き継がれてしまう。
父親を助けようとする優しい子が、こんな重いものを背負ったら心を病んでしまう。
「……なあ、よければ俺にその呪い、解除させてもらえないか?」
くわっ、と魔王が目を剥く。
「そ、それができるなら是非ともお願いしたい……が、本当に可能なのか? ベリアルは歴代魔王の中でもトップの凶悪さを持つ。今まで何人もの呪術師や魔導師たちに解除を依頼したが、無理だった呪いを解けるというのか?」
「わからない。けど、その呪いがみんなを苦しめているなら、俺は放っておけない」
今の俺には状態の異常を見抜く目と、それを治す手がある。
もしかしたら治せるかもしれない。
「……頼む、ジーク殿。長きにわたる呪いの連鎖を断ち切ってくれ。……失敗しても誰もおぬしを責めはしない。たとえ我が死んだとしてもな」
「お父様……」
魔王は微笑むと、娘をギュッと抱きしめる。
「やってくれ」
俺はうなずいて、魔王に手を向ける。
神の眼で異常を見抜き、神の手を以て……癒す。
その瞬間、今までにないレベルのまばゆい光が、部屋を包む。
それは魔王の城からあふれだし、外へとあふれて行く。
「な、なんてまばゆい聖なる光! けれど……とても心地よいですわ……」
その光は魔王の体に浮かんでいた入れ墨を、徐々に消し去っていく。
やがて……。
「し、信じられぬ……呪印が、消えておる……!」
腕に描かれた茨の入れ墨が、綺麗さっぱりとなくなっていた。
「我にはわかる。我の内側で暴れていた呪いが綺麗さっぱりなくなり、魔物達を苦しめていた始祖の声が聞こえなくなったと!」
どうやら解呪に成功したようだな。
「信じられぬ……何世代にもわたり決して解かれぬと思われていた呪いを、解いてみせるなんて……見事なり!」
「ジーク様!」
だきっ! とイレイナが俺に抱きついてきた。
「ありがとう! 呪いを解き、わたくしたちを苦しみから解放してくださって!」
「ジーク殿。誠に感謝する。あなた様は我らの救世主だ。おぬしこそ、世界を救った勇気あるもの……勇者の称号にふさわしい男よ」
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魔王より称号【救世主】を獲得。
条件を満たしました。
勇者マケーヌより称号を剥奪し、ジークに譲渡。
マケーヌは勇者の称号と能力を失いました。
ジーク・ベタリナリは【救世ノ医師】へと存在進化します。
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