45.勇者の襲来、国王の遅すぎた到着
それは、俺が竜舎にて、氷竜の診察をしているときだった。
ビリッ! と肌に殺気を感じたのだ。
「あぶねえ!」
『きゃっ!』
俺は氷竜の体をドンッ! と突き飛ばす。
ズバァンッ! と激しい音とともに、光の奔流が竜舎を包んだ。
それは壁を容易く砕き、地面を切り裂き……そしてさっきまで氷竜がいた場所を完全にえぐり取っていた。
「無事か!?」
『え、ええ……ジーク様のおかげで助かりました。しかし、今のいったい……?』
「ちぇー、避けられちまった。勘がいいね、あんた」
倒壊した竜舎へと、近づく赤い髪の青年がいた。
「! お、おまえは……勇者マケーヌ!」
史上最年少で勇者となったと、うわさになっていたから知っていた。
『あ……にき……』
全身血だらけの飛竜を、マケーヌが尻尾を掴んで引きずっていた。
逆の手には、光り輝く剣を握っている。
「飛竜って弱っちいねぇ。やっぱやるなら古竜クラスじゃないと面白くないや」
「離せ! こいつがなにをしたっていうんだよ!」
「飛竜は魔獣でしょ? 勇者が討伐して何がおかしいの?」
手に持った光の剣で、飛竜の体を切断しようとする。
俺は高速で移動し、勇者の手から飛竜を奪って、離れる。
すぐさま治癒を行いたいところだが、神の手では治癒魔法が攻撃になってしまう。
急いで止血用の軟膏を塗り、応急処置をする。
「聞いたとおりだ。あんた魔獣も助けるんだね」
「だからなんだ、俺は全ての獣の医者だ」
「あっそ。じゃ敵だね」
俺は飛竜の治療をしていると、背後に気配を感じる。
「【麻痺】」
「ガッ……!」
マケーヌはスキルの効果で、その場に倒れる。
「ば、ばかな! 完全に気配を……消して、近づいたのに!」
「獣ノ医師は五感に優れる。肌でわかるんだよ、殺意とか害意ってのはな」
『す、すごいです……気配だけで攻撃を避けるなんて』
麻痺っている間に応急処置は完了。
『兄貴ぃ~……ごめんねぇ~……お知らせできなくて』
「気にすんな。ゆっくり寝てろ」
転がっている勇者の元へ、俺は行く。
「ちく、しょぉ! なんだこの……強力な麻痺は! ま、まったくうご、けねえ!」
「……聞きたいことがある。何しにここへ来た?」
「ここにゃ、手負いの氷竜がいるって、聞いてさぁ! そいつに用があるんだよぉ!」
凶暴な笑みを勇者が浮かべる。
「……誰からそんなこと聞いた?」
「国王からに決まってるだろぉ!」
……俺は全てを理解した。
国王に命じられて、勇者は氷竜を殺しに来たんだ。
「ま、もっとも本命は氷竜じゃなくてその夫の」
「黙れ」
俺は勇者をにらみつけていう。
「大人しく帰れ」
「ぼ、ぼ、ボクにめ、命令するんじゃないよ!」
『すごい、魔王を倒しうる力を持つ勇者が、完全にジーク様に怯えております』
ビキッ! とマケーヌの額に血管が浮かび上がる。
「だれが、怯えてるだってぇえええええ!?」
無理矢理勇者が麻痺をとくと、俺から距離を取って、剣を構える。
「殺す! おまえも竜も! この国の獣全部ぶっころしてやる! この絶対切断の聖剣の一撃をもって!」
きぃいん……! と聖剣に光が収束し、勇者が剣を振るう。
光の奔流が俺めがけてやってくる。
さっきのはこの一撃だったのか。
『先生! 危なぁい!』
「ひゃーはっはぁ! 上級魔族すら一撃で粉砕する強力な斬撃だぁ! ただですむと思うなよお!」
拳を握りしめて、やつの剣の一撃を、弾いた。
「なっ!? ば、バカなぁああ! 素手で聖剣の一撃を防いだだとぉおお!?」
高速で間合いを詰める。
「くっ! 死ね!」
俺は霧氷錬金で氷の剣を作り、聖剣をたたっ切る。
パキィイン! と音を立てて、聖剣が粉々に砕け散った。
「あ、あり得ない……聖剣が、神から与えられた最強の剣を……粉々に砕いただと……?」
俺は勇者を見下ろす。
「ご、ごめんなさい! ゆ、許してください!」
握りこぶしを作って、勇者の頬をぶん殴った。
「ぶぎゃぁあああああ!」
コマのようにクルクルと回転しながら、勇者はいずこへと飛んでいった。
魔王を倒す仕事があるからな、殺さないでおいた。
「……しかし、国王のヤツ、ひでえことしやがる」
身ごもった竜を傷つけただけに飽き足らず、復讐のために勇者まで送り込むなんて。
「元から最低だと思ってたけど……これで本当に失望したわ。もう二度と顔も見たくねえ」
と、そのときだった。
『兄貴ー!』
別の飛竜が、俺の元へ降り立ってきた。
『たいへんだ! 国王ってやつが、騎士をたくさん連れて獣人国に攻めてきたよ!』
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