41.国王、神竜王の怒りを買う
獣ノ医師ジークが、氷竜を救出した数日後。
国王の私室にて。
「宰相よ、王都の民たちの反応はどうだ?」
「良好でございます。ご命令通り、氷竜を退けたのは国王、ということで情報を流しましたところ、さすが陛下だとみな感心しておりました!」
氷竜がジークによって退けられたことを知っているのは城に居た国王や兵士たちのみ。
王都の民たちには宰相経由で、偽の真実を知らされていたのだ。
ようするに氷竜を退けた手柄を、国王は横取りしたのだ。
「くくく、これで下がったわしの株も上がるというもの。国民が馬鹿な奴らばかりで助かったわい」
「さすが陛下。見事な作戦でございます!」
と、そのときだった。
ドガン! と激しい爆音とともに、部屋の天井が吹き飛んだのだ。
「なぁ!? なんだぁああ!?」
「へ、陛下! う、上を! りゅ、りゅ、竜の大軍です!」
数え切れないほどの竜の群れが、城の上空を旋回していた。
「なんだなんなのだいったい!?」
「騒がしいぞ、羽虫」
竜たちの中心に、誰かが空中に立っていた。
それは一見すると、20代くらいの、人間の青年に見えた。
まばゆい黄金の髪に、紅玉の瞳が特徴的だ。
すぅ、と空中を滑るかのように、青年が国王たちの前に降り立つ。
その背後には数匹の竜が着地し、頭を深々と下げた。
「な、なんだ貴様はぁ!? ま、魔族か!?」
青年は顔をしかめると、片手を国王たちに向ける。
激しい爆音とともに、すぐ目の前の床が吹き飛んだ。
「ひぃぎいいいいい!」
「痴れ者が。あんな下賤な輩と一緒にするな」
竜を率いていた青年が、地面に這いつくばる国王たちを見下ろして言う。
「オレは神竜王。すべての竜たちの王である」
「し、し、神竜王だとぉおおおおおお!?」
突然現れた神竜王の登場に、驚愕を隠し切れない国王たち。
嘘だと否定しようにも、引き連れた無数のドラゴンたちが、暴れることなくこうべを垂れている。
その姿、そして彼から発する圧倒的な王者のオーラは、なるほど竜たちの王に相応しいものであった。
「し、神竜王がなんのようだ!?」
「貴様はオレの妻と子を傷つけたのでな。報復に来たのだ」
「妻と子だと!? なんだそれは知らんぞ!」
「……先日ここにきた氷竜がいただろう。あの女はオレの7番目の妻だ」
さぁ……と国王の血の気が引く。
あの氷竜は神竜王の妻、すなわち王妃だったのだ。
「……貴様は王の妃とその娘を、殺す寸前だったのだ。万死に値するぞ、人間!」
神竜王が怒りとともに、体から莫大な量の魔力が発生する。
「うぎゃぁああああああああああ!」
その圧倒的な力の波動の前に、国王達は吹き飛ばされ、壁に激突する。
『特に国王! 貴様は戦う意思のない女の声に耳を貸さず、殺せ殺せと兵士達に命令したようだなぁああああああ!』
王の体が突如として、黄金と紅の光を発する。
人間サイズだった王の体は、みるみるうちに巨大化していった。
「あ……あぁ……」
国王は声を震わせながら、上空に出現した、巨大な竜を見上げる。
まばゆい黄金の鱗を持った、超巨大ドラゴンだ。
「きゃぁあああああ!」「な、なんだこの化け物はぁああああああああ!?」
王都のあちこちで悲鳴が上がる。
この街の上空に、街を遙かに超えた大きさの竜が出現したのだ。
王都民の恐怖と絶望の声があちこちから上がる。
『国王よ、神竜王の妃と王女を手にかけて、よもや生きていられると思うなよ……』
「い、嫌だぁああああ! 違う違うちがぁあああああああああう!」
国王は壁から出ると、その場に跪いて言う。
「わ、わしはやってない! 傷つけたのは騎士と傭兵どもだ! わしは無関係だ!」
……王を守る騎士よりも、自分の命を優先したのだ。
『黙れ大罪人が! 大人しく罰を受けろ!!!』
ぐぉっ……! と神竜王が巨大な顎を開く。
口の中に煌々と輝く赤い炎がわだかまっていた。
竜の口から、凄まじい温度の熱波が発生する。
それは灼熱の風となって、王都に吹き荒れた。
「うぎゃぁあああああああ!」
熱波はまたたく間に広がり、王都を守る外壁と、城を守る壁、そして王城を溶かす。
……それだけを溶かして、熱波は唐突にやんだ。
「………………はぇ? い、生きてる……?」
城だったものはドロドロに溶け、中にいた人たちは地に伏せ呆然としている。
そう、あれだけの炎を受けても、人間達全員が無事なのだ。
『オレの妻と子を救った命の恩人ジークに免じて、貴様らの命だけは助けてやる』
フンッ、と不愉快そうに神竜王は鼻を鳴らす。
『ジークの素晴らしい技術により、妻は無事出産を終えた。母体も無事だ。……ここは元とはいえ彼のいた国だ。報復は以上とする』
だが……! と神竜は声を荒らげる。
『聞け! 愚かなる人間どもよ! 貴様らが今日を生き延びることができたのは、ジーク・ベタリナリという希代の獣ノ医師がいたからだ! 彼のおかげで自分たちの命があることを、努々忘れぬことだ!』
バサリ、と大きな翼を神竜王は広げる。
『国王、これで勘弁してやる。だが……貴様の顔は覚えたぞ』
「ひぐっ……!」
竜の放つ圧倒的な怒りのオーラの前に、じょぼぼ……と国王はもらしてしまう。
そして竜達はいっせいに消えて、あとには雲1つない空が広がっていた。
「くそ……とんでもないことに、なりやがった……」
国王が呆然とつぶやく。
「へ、陛下ぁ! 大変でございますぅうう!」
「今度は何だ!?」
「王都を守る外壁が消失したことで、国防用の使い魔の魔獣たちが、王都に流れ込んできたようですぅううう!」
一難去ってまた一難……国王は泣きたかった。
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