28.国王、同盟国との関係を1つ失う
ジークが獣人国のために働いている、一方その頃。
国王は私室で毛布にくるまりながら、寒さに耐えていた。
「くそっ! 無能な宮廷魔導師どもが! いつになったらこの城は元通りになるのだ!」
チノの氷の魔法により、城は氷漬けになっている。
魔導師たちが総力を上げて溶かそうとしているが、まだまだ元通りになりそうになかった。
国王は昼夜ぶっ通しで、魔導師たちを働かせている。
彼らはすでに悲鳴を上げているのだが、宰相経由でその話を聞いても、その声を無視していた。
「城がこんな状況で休みたいだと? まったく怠け者どもが……!」
と、そのときだった。
コンコン、と部屋の扉がノックされたのだ。
「だれだ? わしは今忙しい。後にしろ」
『ごきげんよう、国王陛下。リヒターでございます』
バッ……! と国王は毛布を脱いで、駆け足で扉の前までやってくる。
ドアノブを引くと、そこには隣国の王、リヒターがいた。
「こ、これはリヒター殿! 遠路はるばるフォティアトゥーヤァからお越しいただきかたじけない!」
リヒターはこの国と手を結んでいる、同盟国の1つだ。
普段は穏やかな笑みをたたえている彼だが……今はなぜか、険しい表情をしている。
「して、何用でございますかな?」
「………………………………はぁ」
リヒターは失望したようにため息をつく。
「陛下、先日の会合、あなたすっぽかしましたね?」
「は……?」
「半年前に通知を送ったでしょう?」
「あっ!」
大事な会合があったことを、国王はすっかり失念していた。
「す、すみませぬ! な、なにせ半年も前のことだったゆえ!」
「ちゃんと先週、フクロウ便にてリマインドの通知を送っていたはずですが?」
各国には郵便物を運ぶ用のフクロウがそれぞれの国に置いてある。
リヒターたちはきちんと、王国の所有する郵便フクロウに、開催通知を持たせた。
……しかし、そのフクロウは言うことを聞かず、リマインドの通知が国王の下へ届かなかったのである。
きちんと手入れしてくれる、獣ノ医師ジークがいなかったからだ。
「す、すみませぬ……何か手違いがあったもので」
「……会合当日、わたしは何時間も待たされました。その間念話も通じぬし、念話が掛かってくることもなかった。どういうことですかな?」
「そ、それはぁ……今……そのぉ……」
念話の魔法術式は、宮廷魔導師たちが管理している……と国王は思っている。
だが実際は違う。
ジークが術式の調整を、定期的に行っていたのだ。
宮廷魔導師たちは、念話の術式なんていう、とても高度な術式を操ることはできない。
ジークが作り、調整していた物を、彼らが使っていただけ。
……ようするに、ジークが宮廷からいなくなった時点で、他国との念話が通じなくなったのだ。
「会合はすっぽかす。連絡もない。遅れたことに対する謝罪もない。同盟国として、その態度はいかがかな?」
「そ、その……そう! 今、城は大変な状況にあるのです! 極悪魔法使いによる襲撃を受けたせいで、こうなったのです!」
するとリヒターは、さらに顔をしかめる。
「極悪魔法使いとは、チノくんのことですかな?」
「え……?」
「彼女はわたしの愛弟子なのですが、ご存じないと……?」
「ええっ!?」
リヒターは魔法研究者でもあった。
同じく魔道を志す物として、チノとリヒターの間では交流があったのだ。
……もちろん、現在も親交がある。
「ずいぶんと彼女の兄に酷い仕打ちをしたようですね。それに愛弟子を悪人に仕立て上げるなど……」
「いや……その……これは……そのぉ……」
ふぅ……とリヒターは深々と吐息をつく。
「……潮時か」
ぽつりと一言言って、リヒターが挨拶もなくきびすを返す。
国王はその腕を掴む。
「ま、待ってくだされリヒター殿! し、潮時とはいったい!?」
「もう同盟はこの代で解消しましょう」
「なっ!?」
「あなたの悪いウワサは以前より聞いておりました。だが先代から続く同盟国。交流を続けてはいましたが……もう無理です」
バッ……と腕を払う。
「城の状態、王都の混乱っぷり。そしてあなたの愚鈍さ。この国は沈みゆく泥船。手を結んでいたらこちらまで溺れてしまう」
「そ、そんな待ってくれぇ! わ、わしの代で関係を終わらせてしまったとなれば、末代までの恥だ!」
だがリヒターは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「……どこまでも己のことしか考えないのですね。チノくんの判断は正しかった。こんな屑のところに、有能な人材を腐らせる必要はない」
それだけ言って、リヒターは立ち去っていった。
「くそ……! ちくしょぉおお!」
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