エピローグ
それからしばらく経った、ある日のこと。
よく晴れた日の午後、魔王国にて。
「はい、ジーク動かない! ちゃんとしてください! 今日は結婚式なんですからねー!」
目の前には、金髪のケモミミ少女が立っている。
彼女はハク。神獣王ソフィアさんの娘さんだ。
そう……今日は俺の結婚式なのである。
朝からその準備でみんなバタバタしてる。
ハクはだらしのない俺のために、身なりを整えてくれているのだ。ありがたいこった。
髪の毛に整髪剤をつけたり、白いタキシードを着させたりして……準備完了。
「うん、良い感じ! ジークかっこいい! いつも以上にちょー素敵っ!」
「はは、さんきゅー」
俺たちがいるのは、魔王城の広大な草原。
人も獣も魔族も、みな平等に、笑いながら、その場に集まってる。
「色々あったねえ、ジーク」
「そうだなぁ」
本当に、これまで色々あった。
人間国ゲータ・ニィガで宮廷獣医をしていた俺が、ある日追放されて、ハクと出会い獣人国へ行き……。
その後、色々あって自分の国を作って、そして、色々あって、嫁さんをもらおうとしている。
「おお、ジーク。似合ってるじゃあないか」
「親父!」
生ける屍だった親父は存在進化して、現在人間となっている。
今は魔王国で暮らしており……なんと、また宮廷獣医をやってる。
獣の命を救うのが、一番性に合ってるんだってさ。
「あんなちびっ子だったおまえも、ついに所帯を持つのか。おれも年を取ったな」
「何じじくさいこといってるんだよ、親父」
生き返った親父は、まだまだ若い見た目をしてる。
まだまだこれからだ。
「そんじゃ、一足先に行って、待ってるぜジーク」
「おうよ、あとでな」
☆
さて、ジャマーを倒したあとのことを少し語ろう……。
あの後、ジャマーによって作られた命には、俺が全て、新しい肉体を授けた。
受肉した人たちはみな、俺の国、魔王国で面倒を見ることにした。
そして俺は世界を救った英雄として、多くの人たちから感謝されることになった。
俺は世界中の人に向けて、魔獣も魔族も悪いやつじゃあないと主張。
世界を救った英雄の言葉ということで、皆が信じてくれた。
今まで魔獣を狩っていた人たちに、魔獣を倒さずとも、エネルギー源である魔力結晶が手に入ることを教えた。
これでしばらくすれば、もう魔獣を狩る風潮はなくなるだろう、とチノが言っていた。
そして、今日。
俺は半魔族(※実はチノは半分魔族の血が入ってる)と、魔獣(※ちーちゃん)と結婚する。
これがきっかけとなって、人も獣も、同じ命である……という認識を、皆が持ってもらえたらいいなって思ってる。
あ、そうだ。
ちなみにハクと融合して発揮した完全なる神の力なんだけど、ジャマーを倒して以降、もう使えなくなった。
神の手も、なんか使えないんだよな。
多分役割を終えたんだろう。
あ、でも後遺症? なのか、治癒魔法は使えるようになったぜ。
ま、これがあれば十分よ。
俺は獣ノ医師だからな。
☆
「新婦の入場です」
青空で、みんなが見守る中、白いドレスに身を包んだちーちゃんとチノが入ってくる。
二人を連れているのは……俺の親父だ。
どちらの親も、親父だからな。
二人がゆっくりと近づいてきて、俺の隣に立つ。
神獣王ソフィアが、俺たちを見渡して言う。
「では、ジーク。あなたはこの二人を妻として迎えますか?」
「はい!」
「チノ、ちーちゃんは? この男を夫として迎えますか?」
「「はい!」」
「では、誓いのキスを……」
二人が微笑みながら、顔を近づけてくる。
以前の二人なら、どちらが先にキスをするかで揉めていただろう。
でも今は二人仲良く……。
「ちょっとチノ! まずはアタシとキスでしょ!」
「は? 何を言ってるのですか? 兄さんのファーストキスは私です」
ぎゃあぎゃあ、きいきいと揉めてる二人。
でも別に嫌な感じはしない。仲が良いからケンカしてるんだ……うん。
そう、もう魔獣とか人とか関係ない。
少なくともここに居る皆は、人も獣も、平等に……お互いを尊重して生きている。
「チノ、ちーちゃんっ」
俺は二人を抱きしめて、同時にキスをする。
「俺、二人をちゃんと幸せにするよ! そんで……ここにいる仲間と、この世界にいる全員を、幸せにする……!」
わっ……! と集まってくれた人たち、獣たちが、歓声を上げた。
ちーちゃんたちは涙を流しながら、何度もうなずく。
爽やかな風が俺たちの間に吹く。
人と獣の結婚。やがてこの新しい風は、世界に新たな命を産むだろう。
そうやってこの星はこのあと何十、何百、何千年と……続いていく。
新しい命が芽吹いて、次の世代へとつないでいく。俺はそのいにしえより続く大きな流れの一部に今日、なったのだ。
「そんじゃ、堅苦しいのは終わり! みんな……宴じゃー!」
「「「おー!」」」
ハクの音頭で、みんながどんちゃんと賑やかに騒ぎだす。
俺は二人の嫁の手を取り、皆の元へと向かうのだった。
《おわり》
【★あとがき】
これにて完結です!
読了ありがとうございました!