240.
《ジークSide》
俺は皆のおかげで、一時的に神になった。
全身を満ちる、万能感。
今まで味わったことのないレベルだ。
何でも出来る気持ちになれる。
出来そう、じゃなくて、出来る……だ。 今の俺に不可能はないって、そう思える。
『ジークうぅうううううううううううううううううううう!』
虚無の巨人が腕を伸ばしてくる。
アレに触れると虚無のかなたへと飛ばされてしまう。
パァンッ……!
だが、やつの腕が膨張して破裂した。
『な、なんだぁ!? 何が起きたんだぁ……!?』
「生命エネルギーを流し込んだ!」
『エネルギーを流し込んだだとぉ!?』
あらゆる物を吸い込むことが出来る、ブラックホール。
しかし万物を吸い込むことが出来ることと、無限に物を吸い込めることとは、イコールではない。
無限に等しいエネルギーを巨人に送り込むことで、膨張させ、内側から破裂させたのだ。
「無意味だ、ジャマー。おまえはもう終わりだ」
『ち、ぐ、しょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ジャマーが巨人を操り、連打をカマしてくる。
俺は避けない。
神の力による結界を張っておく。
巨人の攻撃がぶつかった瞬間、敵の腕が回される。
この結界にも無限のエネルギーが注ぎ込まれている。
虚無の巨人の腕が触れた瞬間、先度と同じ理屈で無限エネルギーが送り込まれ、結果破裂する。
「ジャマー……反省する気はないか?」
やつはまごう事なき悪人だ。
でも……人はやり直すことができる。
長い年月かけて、やり直せるのだ。
人である以上、言葉が通じる以上、同じ、命である以上……。
『無駄だぁジークぅ! 貴様をわしは決して許せん! 生きてる限り何度でも! 貴様に復讐してやるからなぁ……!』
……そうか。
残念だ。
俺は片腕を持ち上げる。
「みんな……力を借りるぜ!」
俺を信じてくれる、命たちの力を、右手に集中させる。
ゴォオオオオオオオオオオオ!
巨大な黄金の球体は、太陽を彷彿とさせた。
俺はゆっくりと拳を閉じる。
すると巨大な太陽が小さく凝縮され、俺の手のひらに収まった。
俺は手を後にひいて構える。
『死ねぇえええええじぃいいいいいいいいいくぅううううううううううううううううううううううう!』
ジャマーが巨人を操って攻撃を仕掛けてくる。
俺はやつの拳めがけて……前に、手を突き出す。
「奥義……【事象境界面】」
俺の手に触れた巨人の体が、一瞬で、シャボン玉になった。
本当に一瞬の出来事だ。
『え、え? ジーク……何をしたの?』
「生命エネルギーを凝縮して、ジャマーに一気に流し込んだ」
『? そうすると、どうなるの……?』
「終わりのない、無限の彼方に、飛ばした」
『? ?? ??????』
ハクが困惑してる……。
俺もどう説明して良いのかわからなかったが……。
「別の次元に送ったって、感じかな。無限生命エネルギーで、もう一つの宇宙を作って、そこに無限のエネルギーを付与したジャマーを送った」
『う、宇宙を創造!? 無限のエネルギーを付与!? わけがわからないよ!』
だろうな。
俺も自分でやってあんま理解してない。
ただ、ジャマーをあのまま殺しても、意味ないと思ったんだ。
「ジャマーには反省する時間が必要だって思ったんだよ。だから、別の宇宙を用意して、死ねないようにした。無限の時間、無限の生と死を繰り返し、その中で……自らの過ちに気づいて欲しい。そればできたら、無限宇宙から戻してやろうって思ってさ」
『そっか……殺した訳じゃあないんだね』
「ああ。殺して、はいお仕舞いってのは、なんか違うなって思ってさ」
『マケーヌは?』
「あいつはもう死んでたし」
それに、復活マケーヌとの戦いで、神の力で人を殺しちゃいけないって気づけたんだ。
そういう意味で、マケーヌには感謝だな。
「さて……一応の片はついたし、帰るか、ハク」
『そだねー!』
俺は転移門を生成する。
そして……
「ジークぅうううううう!」
「にいさぁあああああああん!」
俺が地上へと帰ってくると、ちーちゃんとチノが出迎えてくれた。
ふたりがだきっ、と正面から抱きしめてくれた。
ああ……俺、大切な人たちのもとへ、帰ってくることができたんだ。
ハクとの融合がとけた俺は……二人をぎゅっと抱きしめて、笑顔で言う。
「ただいま!」
「「おかえり……!」」