239.
《ジャマーSide》
ジャマーは勝利を確信していた。
全てを飲み込むこの虚無の巨人さえあれば、たとえジークが凄い力を持っていたとしても勝てると。
巨人は地上にあるものすべてをすいこんでいく。
人も、大地も、そして……この星も。
そう、全てとは文字通り全てなのだ。
この巨人はこの星すら飲み込んでしまう。そうなると、ジャマーが暮らす大地も、無くなってしまうだろう。
だが、彼はそれで良かった。
あの憎いジーク・ベタリナリさえ、殺すことが出来ればいい。
そのあとに何も残らなくても良いのだ。
「これで終わりだ、ジークぅ!」
虚無の巨人の吸引力を最大にする。
ごぉおおおおお! と激しい音を立てながら……。
虚無の巨人は、この星に済む生命と大地を、全て吸い込んだ……。
『ぐ、ぐふふ! かかかかか! 勝った! 勝ったんだ! わしは勝ったんだぁ……!』
虚無の巨人の目の前には、真っ黒い宇宙空間が広がっている。
そう、巨人は全部を吸い込んで見せたのだ。
『やった! ついに……ついにわしはジークを倒したのだっ!』
「誰を倒したって……?」
ばっ! と後ろを振り返る……。
そこには、あるはずのないものが、【二つ】あった。
『じ、ジークぅううううううううううううううううううう!?』
「よぉ、ジャマー」
ジークが平然と立っていた。
ただし、彼は黄金色に輝いていた。
体全身から、まるで太陽のように、強く激しい光を発してる。
服装も、白衣から、どこか神聖な衣に身を包んでいた。
そして、頭からは犬耳、お尻からは尻尾が垂れている。
『なんだそれは!? なんで生きてる!?』
「わからん。ハクが言うには、神になったらしい」
『はああああああああ!? 神ぃいいいいいいいいいい!?』
するとジークの体から女の声が聞こえてきた。
『神獣ハクちゃんが説明しよう! いま、ジークは神獣と合体してる状態なのだ!』
『神獣と合体だと!?』
『そう! 霊的存在と合体することで、神のごとき力を得ている! それが、今のジークなの!』
何を言ってるのかさっぱり理解できないが……。
ジークはまだ生きてる。これは、確実のようだ。
『なぜ貴様が生きてる……そして! なぜ、あの青い星が存在するのだ!!!』
ジークの背後には、ついさっき虚無の巨人が吸い込んだはずの、ジークたちが済む青き星が存在する。
青き星は吸い込んで、虚無の彼方に消えたはずだ。
『それが、神になったジークの力だよ! 名付けて、天地創造!』
『天地創造だと!?』
『そう! ジークが願えば、あらゆる物を生み出せるの! この星も、そして星に住まう命すらも!』
……なんということだ。
天地創造だと?
そんなの……。
『か、神……』
まさしく、ジークは神となったのだ。
『一度吸い込まれて消滅した青き星を、ジークがぽんっと作ったの。そんで、ジークは元々いた人たちを、新しい第二の青き星に移したの!』
……ジャマーは愕然とした。
星をひとつつくり、そこへ星に暮らす人々を移しただと?
人間の所業ではなかった。
『た、たかが人間ひとり、そんなことができるはずがないだろ!』
「そうだな。そのとおりだよ。俺の力は神の力っていうけど、所詮は限定的な物さ」
ジークが笑う。
「この天地創造の力、どうやら皆が、俺を神だと思ってくれてないと発動しないらしい」
『そう、この力は万能ではあるけど、使用制限がかかっている。ジークを信じる命の数が、ある一定数以上いないと発動しない』
ジークは今までたくさんの命を救ってきた。
人も、獣も、分け隔て無く。
彼らにとってジークは、まさしく救いの……慈愛の神と言えた。
『ず、ずるいではないか! 突然急に、神の力なんぞ手に入れよって!』
『ずるくないわ。ジークが今まで、失われかけた命を、たくさん救ってきたからこそ、今彼に神の力が顕現してるの』
神のごとき医療の力を、地上にいる全ての命に、分け隔て無く使った。
その結果、信者を増やし、こうしてジークは神と成ったのである。
「さぁ、ジャマー。ここには俺とおまえ、二人だけだ」
ジークが拳を握りしめて、ジャマーを見やる。
「思う存分、俺とやり合おうじゃあないか」』




