235.
空中要塞にて。
ジャマーを倒しに行こうとする俺のまえに立ち塞がったのは、俺の親父……グリシャ。
親父は黒い衣を纏い、目の前に立ってかまえている。
その構えは、俺に叩き込んだ、体術。
手負いの獣と渡り合うために必要だと言って、俺に教え授けた……技術。
俺は……同じ技を持って、親父と相対する。
たんっ! と俺たちは地面を蹴る。
親父が回し蹴りを放ってくるのがわかった。
俺は同じように蹴りを放つ。
がきぃいいいいいいいいいいいん!!
二つの蹴りがぶつかり合い、周囲に衝撃波を発生させる。
硬そうな要塞の地面と壁にひびが割れる。
俺の足にもかなりの衝撃が走る。
骨がきしむが、だが痛みは感じない。神の手による治癒で、己の肉体への負荷を消しているからだ。
親父が俺の蹴りを受けて、にやりと笑う。
「良い蹴りだ」
……親父から、褒められた。そんな状況ではないとはわかっていもても、俺の口角はつりあがる。
「ありがとう。親父も実践から離れてたっていうのに、いい技してるねえ!」
「はっ! なめんな小僧!」
俺たちは徒手空拳で戦う。
がきん! ばきっ! ぎんっ!
「な、なんて衝撃なの……!」
ちーちゃんが後で、ハクとシアを連れて待機してる。
彼女がびびるくらいには、オレらのパワーがすごいってことだろう。
親父と俺の体術はほぼ互角。
神の手がつかえる俺のほうが、反動を気にせず戦えるので有利……と思われる。
しかし親父は生ける屍。
体にいくら負担がかかっても、痛みも苦しみも感じない体だ。
ゆえに、反動を気にせず戦うことが出来る。
イーブン……いや、やや俺のほうが不利といえる。
俺は生者で、親父は死者。
俺は痛みを消せるとは言え、体にはダメージが蓄積していく。
「どうした、ジーク! 笑ってる暇なんてあるのか?」
そう……俺は笑っていた。
一度目の戦いの時には、そんなことしてる余裕はなかったのだが。
今は……笑う。それくらいの余裕はある。
「なるほど……何かを狙ってるのだな?」
「さあ、それはどうだろうなぁ!」
俺はうれしかった。
親父と、互角に戦えてる自分がいたから。
親父に、獣ノ医師として、追いつきたいって幼い頃からずっと思っていた。
でも追い越す前に親父は死んでしまい、もうその機会は永遠に失われてしまった……。
でも。
今、親父が目の前に居る。
敵同士ではあるけども、俺は親父に、成長した姿を見せることができてる。
親父が、うれしそうにしてる。多分俺の成長を喜んでいるのだろう。俺は……それがうれしかった。
「ハク! どうだ!?」
「進捗……80%! もうちょいだよジーク!」
【もうちょっと】だ。
だが……体にだんだんと負担が……くっ……。
「よそ見か、ジーク!」
一瞬の隙を突いて、親父が蹴りを放ってきた……。
ばきぃいいいいいいいいいん!
「ほう、おまえも戦うのか?」
「ええ、そうよ!」
俺の前に、ちーちゃんが現れる。
その両手、両足には氷でできた手甲と足甲が嵌められている。
シアの……神竜の力を身に纏っているのがわかった。
「だってアタシは、ジークの番なんだから!」
「ちーちゃん……」
にっ、とちーちゃんが笑う。
番……そう、俺は、もう彼女を、本当の意味で家族だと思ってる。
死ぬまで一緒に居て欲しい。
そのためには……。
「親父、紹介するぜ。彼女が俺の嫁さん、第1号だ!」
ちーちゃんを見て、親父がガハハと笑う。
「そうかそうか! やはりそうなったか!」
「ええ、グリシャ……ううん、お義父さん!」
ぐっ、とちーちゃんが拳を構える。
「息子さんを、アタシにください!」
そんなときではないとは、この場にいる全員が思ってることだ。
でも……親父は本当にうれしそうに、楽しそうに笑って言う。
「はは! いいだろう、おれを倒せたら、ジークをやろう! 全力で来い、おまえら!」