233.
俺たちは妹のチノを、ジャマーの手から奪還するため、空中要塞へと急行。
神の手による防御が通じないというハプニングはあれど、空の民たちの協力もあり、俺は要塞のなかへと到着した。
空の民たちが、敵を攪乱してくれなきゃ、やばかった。
みんな、ありがとう……。
『くくく! ジークぅ! よく来たなぁ!』
……要塞の入り口は庭園となっていた。
そこに立つ俺たちの耳に、聞いてて不愉快になるような、甲高い声が届いた。
「ジャマー!」
俺の大切な民、国、そして……愛する家族を奪った、元凶!
知らず、俺は怒りで身体が震えそうになる……が。
そっ、とちーちゃんが俺の手を握ってくれた。
……そうだ。熱くなってはいけない。
俺は、医師だ。
怒りに頭を支配されてしまっては、何も、誰も、救えなくなってしまう。
……落ち着け。
「ジャマー。今度こそおまえと決着をつけにきた。だが、チノを返すなら、赦してやってもいい」
俺は別にジャマーを殺したいわけではない。
チノを返し、そしてもう二度と、誰も傷つけないと約束するなら……
『赦してもらわずとも結構! ジークぅ……わしはおまえを、そしておまえの大切な物を壊すために、今日まで生きてきたのだぁ』
……そうか。
こいつは、そんなくだらん妄執にとりつかれていたのか。
「いっとくが、生き物の命を理不尽に奪おうとするやつに、俺は手加減しないからな」
『大変結構! こちらは何を言われようと改心するつもりはない。この戦いをとめるためには、わしかジークぅ、どちらかが死ぬしかないのだ』
……俺は、暴力が嫌いだ。
だが、それでも。
ジャマーのような悪人に、本当に大事な人たちの命が奪われるのなら……。
「わかった。ジャマー。おまえを……倒す」
『ふっは! 果たしてそれができるかなぁ?』
ぶん! と目の前に魔法陣が展開し、そこから、気持ち悪い見た目の、魔獣なのか、人間なのかわからないものがでてくる。
「あ、あれ! 魔王国を襲ってきた、改造人間たちだわ!」
改造人間。
なるほど……命の波動を感じる。でも、自然な営みで生まれた命ではない。
おそらく、作られた命なのだろう。なんて悲しい存在なのか。
……なるほど。
どうやらジャマーは、最後の最後まで、命をそんな風に粗末に扱うんだな。
『わしは長い時間をかけ、ついに! ジーク、貴様が持つ神の手を、完全攻略した! 貴様とて、痛感したのではないかぁ?』
確かにここへ来る前、神の手の結界を、敵の砲撃が貫いてきた。
どういう原理かは不明だが、俺の持つこの、奇跡の力に対して、攻略法を、ジャマーが開発したのは事実。
『そやつらにもとーぜん! 対神の手用の手段をほどこしてるぞぉ』
「そうかい……そりゃ、ご丁寧に解説どうも」
だからといって……。
俺は、諦めない。
「みんな……来てくれ!」
俺が右手を掲げると、周囲に魔法陣が展開。
そこから現れたのは、転移門だ。
『転移門……なるほど、神の手で作ったのか!』
「ああ。頼むみんな、力を貸してくれ」
そこからあらわれたのは、俺が救ってきた、命たち。
たくさんの魔獣たちが、庭園に集結してくる。
「いよいよ、我らの出番というわけだな」
「ジーク、ここはわたくしたちに任せて、敵をうつのです」
「いけ、若き魔王よ!」
エルロン、ソフィア、そしてヴェイグ。
王たち、そして民たちが、俺に力を貸してくれる。
俺はうなずいて、ちーちゃん、ハク、シアとともに、先を急ぐ。