232.
俺とちーちゃん、そしてハク、シアは、エルロンの背中に乗り、空へと向かっていた。
エルロンは竜の姿で言う。
『超魔王とやらは、我との戦いの最後に、空中要塞にて待つと言って逃げよったのだ』
「つまり……その空中要塞とやらに、ジャマーがいるんだな」
『然り。神竜、そして空を飛ぶ獣たちが手分けして、その要塞とやらを見つけることに成功した』
俺はエルロンの隣を見ると……。
「ぴゅういい! じーくぅ! あっちだよぉ!」
「ハーピィ……それに……」
『『『兄貴ぃい!』』』
俺がかつて助けたハーピィや、元々俺の友達だった飛竜たち。
彼ら空飛ぶ獣たちが、敵の居場所を見つけてきてくれたのだ。
「みんな……すまない」
俺とジャマーとの因縁に、皆を巻き込んでしまった……。
しかし飛竜たちは笑顔で首を振る。
『気にしないで兄貴!』『おれらは好きで兄貴を手伝ってんだ!』
『そうだそうだ! 今まで兄貴にいっぱい色々してもらったんだ!』
『だから……これは恩返しだ! 気にしないでおくれよ!』
「ぴゅいー! きにしなーい!」
……恩返し、か。
俺はこの手でたくさん、命を救ってきた。
それが今、こうして返ってきている。
俺が、この手でやってきたことは……無駄ではなかったんだ。
「ありがとう……みんな!」
やがて、飛竜たちに導かれ、俺たちは雲の間に、巨大な要塞を見つける。
「何あれ! 緑色の……要塞?」
ちーちゃんが目を丸くしながら、空飛ぶ要塞を見てつぶやく。
不思議な、翡翠色の岩石を、削って作ったような無骨な要塞だ。
『おお、あれは我ら竜王国スカイ・フォシワにある、空飛ぶ鉱石、飛行石で作られておる!』
「飛行石……?」
『文字通り空を飛ぶ石のことだ。竜王国スカイ・フォシワにしかない珍しい石……』
なるほど、ジャマーめ。
いつの間にか、竜王国から石を奪っていたのか。
『ジーク! 見て! なんか……筒がこっちむいてる!』
神獣の娘、ハクが、指さす。
要塞の壁には、いくつも門があって、そこから銃口が向いていた。
「大砲だ! みんな、下がってくれ!」
俺は飛竜たちに言う。
どどん! と大砲が発射され、無数の弾丸が飛んできた。
「もう……俺の友達を、誰も傷付けやしない!」
ちーちゃんたち魔王国民の、きずついた姿が脳裏をよぎる。
俺は片手を前に突き出し、神の手を発動させた。
光の障壁が目の前に展開される。
しかし……。
「ジーク危ない! 弾丸が……障壁を通り抜けてきてるわ!」
なんだって?
確かに、俺が展開した光の壁を、弾丸がすり抜けてきた!
……そうか。
マケーヌが魔王国に入ってきたときから、変だと思ったんだ。
魔王国には、国民を邪悪から守る障壁が張られていた。
でも、やつが入ってきた。つまり……。
「神の手を……攻略するすべを、やつらが考案してきたってことか……!」
くそっ、厄介だ……
『問題ない! 先生! 我ら空の民に、任せろぉう! いくぞ!』
『『『おー!』』』
エルロンと空飛ぶ獣たちは、空を軽やかに飛翔する。
弾丸の雨をするするとすり抜けていった。
「す、すげえ……」
『わははは! 我ら翼あるものにとって、空は我らの領域! あんな弾なんぞにあたるわけがない!』
そうか、鳥は風を読む。
空気を裂いて進む弾丸の起動を、風の流れから予測し、避けることが出来るのか……!
『先生。神の力が通じないからって、焦る必要は無いぞ』
エルロンがニヤリと笑う。
『神の力が通じなくとも、我ら獣たちとの……キズナの力がある!』
「キズナの……力……」
『ああ! だから、諦めなくて良い!』
……そうか。
神の手だけが、俺の力じゃあないんだ。
……そうか。
そうだったな。
「そうよジーク。何でもかんでも、自分で背負いこまないで」
ちーちゃんが笑って、俺の手をきゅっとつかむ。
「あなたには、あなたが救ってきた獣たちがついてるわ」
「っ。そう……だよ、な」
神の手が宿ってから今日まで、俺は全ての問題を、自分ひとりで解決しようとしていた。
だって、こんなスゲえ力が俺にあるんだから。
……いつの間にか、俺は全部を背負うようになっていた。
それが当たり前だと思うようになっていた。
でも違うんだ。
俺は、ひとりじゃ何もできない。
ちーちゃんみたいに早く走れないし、エルロンみたいに空を自由に飛べない。
……俺は、万能の神では無いんだ。
神の力を宿しただけの……ただの、人間だった。
「ありがとう……。大切なこと、忘れかけてたよ」
ぽう……と俺の体が少し光る。
頭の上に乗っていたハクが、
「最終進化フェイズに、移行します」
と何かをつぶやいていた。