229.
《ジークSide》
ちーちゃんのおかげで、俺は自分を見失わずに済んだ。
……危なかった。俺は、ついさっきまでマケーヌへの憎悪に、飲まれてしまうところだった。
邪悪なる魔王に、なってしまうところだった……。そうならなかったのは、ちーちゃんがいてくれたからだ。
……ありがとう。そして……ありがとう。
「じ、ジーク……はずかしいわ」
「え?」
気づけば、俺はちーちゃんを抱きしめていた。
目の前には、顔を真っ赤にした褐色少女がいる。
「あ、わるい。いや……だった?」
俺は……ちーちゃんから拒まれるのが、嫌だと思った。
不思議だ。前はちーちゃんを抱っこしたり、ぎゅーっとすることに、抵抗なんて覚えなかった。愛すべきものを抱きしめるのは、俺にとってはいつも通りのことだから。
でも……今の俺には、ちーちゃんから拒まれたらと言う恐れ? のようなものがあった。
「馬鹿ね。嫌なわけないでしょ……」
「ちーちゃん……」
ちーちゃんへの、愛おしさが胸いっぱいにあふれかえる。
ああこれが……。
「って、そうだわ! ジーク! 大変なの! 街が、みんなが……!」
「大丈夫だ」
俺はちーちゃんを抱きしめたまま、右手を頭上に掲げる。
「神の手!」
カッ……! と右手が輝く。
今度は純白の太陽が出現。
それは壊れたもの、死んでしまった獣たちを、瞬時に復活させる。
「す、すご……こんな奇跡をおこせるなんて。ジークは……神さまね」
……神さまなんかじゃ、ない。
俺がいないせいで、みんなに苦しい、辛い思いをさせてしまった。
「俺は未熟な人間だよ」
するとちーちゃんが、ふるふると首威を振るった。
「ジークは凄い人だよ。落ち込まないで」
「ちーちゃん……」
ああ、やっぱ俺……ちーちゃんのことが好きだ。
ずっと側に居て、支えていて欲しいって気持ちが広がっている。
「ジーク……あのその、そろそろ……」
「ジーク!」
そのとき、誰かが俺に話しかけてきた。
「イレイナ! 無事だったか」
魔王の娘、イレイナが俺の元へと駆け寄ってきたのだ。
ぜえはあ……と肩で息をする。
「た、大変ですわ! チノさんが!」
「! チノがどうしたって!?」
俺はちーちゃんから離れて、イレイナに詰め寄る。
「チノさんが……ジャマーに奪われてしまいました」
「……ジャマーぁ」
あの野郎……また……。
俺から、大切なもんを、奪いやがって……!
「先生ー!」
「エルロン!」
頭上から、神竜王エルロンが降りてくる。
「超魔王は、どうなった……?」
「撤退したぞ。最終決戦の地にて、待つと」
……超魔王、そして超勇者。
どちらもあの馬鹿ジャマーが関わっている。
つまり。
親父も、チノも、宿敵の元にいるということだ。
「…………」
「ジーク、どうするの……?」
どうするだって?
「決まってる。最後の、戦いだ」
これで、俺たちの因縁に、けりをつけようぜ、ジャマー。