228.
《ちーちゃんSide》
……ジークの嫁、地竜のちーちゃん。
彼女は魔王国にせめてきた、超勇者マケーヌと相対し、そして……戦って負けた。
しかし次に目ざめたとき、目の前にはジークが居た。
おそらくはジークが奇跡の力で、自分を復活させてくれたのだろう。
安堵すると同時に……怯えた。
そこにいたのは、いつもの、優しいジークではなかったからだ。
明確な怒りの表情と、恐ろしい黒い力を身に纏い、敵を排除した。
それはまさしく、いにしえの伝承にある通りの……魔王の姿そのものだった。
……ちーちゃんは、ジークのその姿に怯えてしまったのだ。
『じーーーーくぅううううううううううううううう!』
うぞぞぞおお……と国内に残っていた、改造人間たちが集まり、やがて超勇者マケーヌの姿になる。
『ぎゃははは! 復活したマケーヌ様が、これくらいで消えると思ったかぁ!』
国内にいた改造人間たちが、すべて、黒い鎧を身に纏ったマケーヌの姿へと変貌したのだ。
『これぞボクの新しい力! ボクの支配下に置いてあるものは、全部ボクに意識を投影することができる……!』
……どうやら、まだ終わりではないようだった。
マケーヌは連れてきた配下に、自分の意識を転写することができる。
ようは、マケーヌは一人ではないということだ。
『今日連れてきた改造人間どもは、およそ2000! ジークぅ! ボクを殺したければ、この2000の敵を一瞬で排除する必要があるんだぞぉ!』
1体でかなり強いのに、あと2000体近くいるなんて……。
だが、ジークが動揺してる様子はない。
さっきと動揺、恐ろしい表情で、敵を見据えていた。
ジークは手を頭上へと伸ばす。
すると遥か上空に、黒い光が集まっていく。
光は集まり、ドンドンと大きくなっていく。そして……。
「黒い……太陽……?」
できあがったのは、黒い光の集合体。
黒い球体が遥か上空へと登っていく。
「もういい。マケーヌ。おまえは……死ね」
死。命を扱うジークが、決して口にしない言葉だ。
だがジークは今、憎悪ととおもに、その呪いの言葉を吐く。
その呪詛が黒い太陽に力を与えた。
黒い太陽からは……。
カッ……! と細長い、1筋の光線が伸びた。
『ああん? なんだこのひょろひょろな光線は? こんなもんでぼ……』
ボッ……!
……光線に当たったマケーヌ(分体)は、一瞬で消し飛んだ。
「破壊の光を凝縮した光線だ。少しでもかすれば、そいつは魂ごと蒸発して、この世から消え去る」
……破壊の光線。
ジークが放ったその黒い光の筋は、まるで花火のように、空中に広がる。
ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッ!
光線はマケーヌたちを恐ろしい速度で、消していく。
ジークは淡々と命を摘む……。
「ジーク……」
ちーちゃんは、かたかたと体を震わせていた。
無感動に人を(正確には人でないものの)、殺してく。
そんなジークが……怖かった。
もうあの頃の、優しいジークがいなくなってしまうのではないか……。
そのことが、怖くてしかたなかった。
「駄目……! ジーク!! だめぇええええええええええええ!」
ちーちゃんはジークにタックルを噛ます。
「ちーちゃ……」
「駄目! ジークは……そっちにいっちゃ、駄目……!!!!!!!!!」
ちーちゃんは大きな声で、ジークに呼びかける。
「あなたは! 人を助ける存在! そんな力で、そんな風に、人を殺しちゃだめなんだよぉ!!!!!!!!!!」
今……ジークは本当の意味での魔王になりかけていた。
残忍で、冷酷なる……悪の大王に。
だが……。
「……ごめんね、ちーちゃん」
ぱきぃん! という破砕音とともに、黒い太陽が消えた。
ちーちゃんがジークを見やる。
彼は……元の優しい顔をしていた。
「ごめん、ちょっと……自分を見失いかけてた。ごめん……」
……よかった、とちーちゃんは心から安堵する。
ああ、元のジークに戻ってくれた……と。