225.
……超魔王は、死んだはずの親父だった。
そして俺に殺して欲しいという。
……俺が?
大事な家族を……殺すだって?
男で一人で、俺を育ててくれた親父を?
俺に獣ノ医師としての技術を教えてくれた、恩人を?
……俺に、人と獣のを愛する心を教えてくれた……俺の、大事な人を?
そんなの……そんなの……!
「んなこと……できるわけないだろう!」
俺にとって親父は愛する家族なのだ。
殺せるわけがないだろ!!!!!
何を言ってるんだ親父は。
殺すなんて気軽に言う人じゃあないし……。
「お、親父! あんた誰かに操られてるんだ! そうだろう!?」
そうとしか考えられないじゃあないか!
じゃなきゃこんな、残酷なことを、子供に任せるわけがない!
俺の発言を聞いた親父は……さみしそうに笑った。
……それがどうしようもなく、生前の親父そっくりで、俺はさらに動揺してしまう。
操られてるようには、思えなかった。
「ジーク……おれを殺せ。でなければ、大切な物を失うぞ!」
「!? どういう……」
「言葉通りだ! いくぞ!」
親父が一瞬で消える。
見失った!? どこ……。
「遅い!」
「ぐああああああああああああ!」
親父が死角から蹴りをかましてきた。
蹴りは肋骨に当たる。
あまりの威力に、俺の骨が折れる音がした。
俺はすぐさま治癒を……なに!?
「神の手が……効かない!?」
「そうだ。それがこの、破滅の炎の力だ」
「破滅の……炎?」
親父の両手両足には、黒い炎が宿っていた。
「この炎は焼いた部位に、再生不可能なダメージを与える。ジーク、おまえの治癒の力がきかないのは、それを上回る破壊の力をおまえに与えたからだ」
「げほげほ……! なる……ほど……」
再生の力が、破壊においつかないのだ。
多分今も、細胞は壊れ続けているのだろう。
裏を返せば、神の手がなければ、俺はもうとっくに死んでいた。
「この炎は術者……つまりおれが生きている限り消えることはない。ジーク! 速くおれを殺せ!」
おれを殺せ。
そんなことを言う、敵がどこにいるんだよ……。
わざわざ、手の内をさらす意味は……。
そこに、自分を止めて欲しいという意思を感じる。
……親父だ。
目の前にいるのは、おれの尊敬する、グリシャ・ベタリナリ本人なんだ。
「……殺せるわけがないだろ」
「ジーク!」
「できるわけないだろぉ!」
俺は……俺は親父を倒せない。
俺が今ここに居るのは、親父が一生懸命俺を育て、そして、獣ノ医師としての技術を叩き込んでくれたからだ。
親父が居たから、たくさんの命を救えた。
親父が居なかったら……俺は……今ここに居ない。
そんな人を……。
殺せるわけがないんだ。
「ジーク! 甘いことを言うな! 今……おまえの国が大変なことになってるのだぞ!?」
「なん……だって……?」
国が、どうしたって……?
親父は何を言ってる……?
「おれを復活させたのは、ジャマーとかいう魔族の男だ」
「! あいつ……また……!」
何度も俺たちの前にやってきて、邪魔をしてきた男だ。
「あいつはおれと、そしてマケーヌとか言う勇者を復活させた。そしてマケーヌは……今、魔王国にいる」
「! な、なんだって!?」
マケーヌが……どうして?
いや待て、それよりもだ。
魔王国に、マケーヌがいるだと……?
俺に恨みを抱いてるあいつが、俺の国ですることは一つ。
親父の発言も相まって、俺の脳裏には……。
俺の大事なひとたちが、命が、蹂躙されている姿が、よぎった。
「…………」
「おれはここでおまえの足止めを命じられている。おれの体はその命令を拒むことができない。ジーク……速くこの父を殺せ。そして……今すぐ国へ行って、助けに向かうのだ」