224.
……俺の行く手を阻もうとしてきたのは、死んだはずの親父……グリシャ・ベタリナリだった。
そんな……。
なんで……?
親父は、死んだはずなのに……。
どうして今ここに……?
いや、なんで親父が獣を殺そうとしたんだ……?
誰よりも優しい、最高の獣ノ医師が……どうして……?
『ジーク! しっかりして!』
シアの声で正気に戻る。
直ぐ目の前には親父が居て、左手を振りかぶっている。
その拳には黒い炎が纏っており、明らかにヤバいのがわかった。
……そして、殺意が込められてることも、理解した。
振り下ろされた拳。
俺は……手のひらでそれを払う。
相手の態勢をくずし、そこに蹴りを……。
蹴りを……。
食らわせられるのか?
相手は……俺の親父だぞ?
「ジーク! 何をしている!? やれ!」
「……え?」
俺に発破をかけたのは、他でもない、親父だった。
な、なんだよ……どうして、親父が自分を倒せみたいな発言するんだよ。
迷っている隙を突いて、親父が俺の足をつかむ。
そして、足をひねって、無理矢理脱臼させてきた。
「ガッ……!」
『ジーク!』
鋭い痛みが足に走る。
痛みに気を取られてる間に、親父が拳を振るってきた。
またしても黒い炎を纏っている。
俺は神の手を発動させる。
聖なる光の領域を広げる。
「ぐわぁあああああああああ!」
親父は苦悶の表情を浮かべながら、吹き飛ばされていった。
……今の治癒の光で、俺の足は元通りになってる。
一方……聖なる光を受けて、親父の肌がじゅうじゅうと焼けていた。
……聞いたことが、ある。
人を治癒する聖なる光。
だがそれを、死者にむければ、邪を払うことができる……と。
「親父……あんた、生ける屍……になったのか?」
生ける屍。闇の魔獣の一種だ。
生者が死んだあと、ごくまれに、魔獣として生き返る事象が確認されている。
……生ける屍になったものは、理性の無い化け物となって、生者を襲うといっていた。
後半部分はあってる。でも……。
「そうだ……ジーク。おれはもう、生ける屍になった。人間じゃあない」
……親父は俺と普通に会話してる。
そして喋っている内容、そして……。
「だから、おれを倒してくれ。おまえに……生きてる人たちに、迷惑をかけたくないんだ」
……人と獣に対する、考え方が、生前の親父そのものだ。
安堵すると同時に……悲しくなった。
「親父……なんでだよ? どうして……あんた、死んだのに……そんなに……」
……そんな、化けて出るほど、俺が頼りなかったのだろうか。
「ジーク。詳しいことは話せない縛りをかせられてる。おれからおまえに望むものはひとつだ……ジーク」
親父は……笑っていた。
ああ、やめてくれ、その笑みは……俺の好きな、親父の笑顔で……。
「おれを、もう一度殺してくれ」




