223.
《ジークSide》
俺は竜王国スカイ・フォシワへと往診に来ていた。
だがなんだか胸騒ぎを覚えて、俺は一足先に、魔王国へと戻ることにした。
深夜、俺は大空を滑空していた。
小竜姿のシアが背中に張り付き、翼を提供してくれているのだ。
「杞憂であってくれ……」
通信用の魔道具を使って、さっきからチノに連絡を取ってる。
だが、一向に連絡がつかない。そのことが……俺の不安をさらに加速させていた。
と、そのときだった。
カッ……!
「なん……」
何の光だ、と言い終わる前に、それは襲いかかってきた。
黒い炎だ。
それが俺めがけて、凄まじい速さで伸びてきたのだ。
『ジーク!』
「大丈夫だ!」
俺は神の手を発動させる。
死者すら復活させる聖なる光は、あらゆる攻撃すら防ぐ。
光の壁は黒い炎の侵入を防いだ。
やがて……炎は消える。
「なんだ……おまえは」
知らず、声が怒りで震える。あの炎は明らかに俺たちの命を狙っていた。
俺を狙うのは最悪いい。
……だが、子供を殺そうとするやつは、クソ以下だ。
子供は宝だ。何人たりとも、壊してはいけない。
……躊躇なく子供を殺そうとしたその人物へ、激しい怒りを覚えた。
「…………超魔王」
そいつは、黒いぼろ布を纏っていた。
超魔王……だと。
俺の知ってる魔王は、イレイナの父、ヴェイグだけだ。
あいつは魔族全体の幸せを考える、いいやつだ。
……こんな、子供の命を狙ってくるやつと、一緒にして欲しくなかった。
「ふざけた名前しやがって。なんのようだ?」
「……ジーク。大きくなったな」
「は? 何言って……?」
一瞬で、超魔王は近づいてきた。
そして俺の腹部めがけて、拳を放ってくる。
避けられない攻撃ではない。
俺は光の障壁を展開。だが……。
ばきぃいいいいいいいいいいいいん!
「グッ……!」
『ジーク!』
やつは障壁を突破してきやがった。
その拳は正確に、人体急所のひとつである、みぞおちを狙ってきた。
……恐ろしいほど、正確な拳。
まるで人体の構造を、正確に把握してるかのような……。
「くそっ!」
俺は超魔王の胸倉をつかみ、そして投げ飛ばす。
「シア! 俺は大丈夫だ! やつめがけて、最大出力で飛んでくれ!」
『う、うん!』
俺は空を駆けると、そのままの勢いで、やつの顔面に蹴りを放った。
パシッ……!
「格闘術のセンスは、昔と変わってないな」
「おまえ何を言って……」
「獣を救う技術ばかりを伸ばしよって。……まあ、昔からおまえは、戦いが嫌いだったからな」
びょぉお……と、一陣の風が吹いた。
ぱさり……と黒フードが、外れる。
「は……? な、んで……」
嘘だ……
あり得ない……
「どうして……ここにいるんだよ?」
……俺を、そしてシアを殺そうとした人物は、俺の……よく知る人だった。
「親父ぃい!」
襲撃者は……俺の親父、グリシャ・ベタリナリだった。




