221.
「……っ、今……アタシ……」
ちーちゃんは正気に戻る。
少しの間、気を失っていたようだ。懐かしい、ジークの父グリシャとの思い出を、思い出していた。
「おいおいどぅうううしたトカゲぇ……」
目の前には、黒い鎧に身を包んだ超勇者マケーヌが居る。
彼はニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。
……国境の町は燃えていた。
やつが、災厄をまねいたのだ。恐らくこいつの仲間だと思われる異形なるものたちが、建物を破壊している。
人の元を壊しておいて、この男はわらっている。
……命を大事にするジーク、そしてグリシャと供に育ったちーちゃんにとって、マケーヌの所業は度しがたいものだった。
「もしかしてさっきの一撃が効いてるんじゃあないか?」
「はっ! 誰が。見ての通り、ぴんぴんしてますけどっ!」
……だがマケーヌの言うとおりだ。傷の治りが、遅い。
魔獣は人間の何倍もの自己治癒能力が備わってるはずなのだが。
やつに貫かれた腹部の穴が、ふさがらないでいる。
それは向こうもわかっているようだ。
「ボクはねぇ、ジャマーから特別な力をさずかったんだよぉう。おしえてやろうか?」
「興味ない!」
……ちーちゃんは目を閉じる。
ここが、命の使いどころだと感じた。
グリシャと約束したのだ。
ジークとチノを守ると。
あの日決意したのだ。
彼らの平和を脅かすものが現れたときは、自らの命もなげうって、倒そうと。
今が、そのときなのだ。




