220.
《ちーちゃんSide》
……地竜のちーちゃんは、在りし日の出来事を思い出していた。
まだジークが幼かったころのこと。
ジークの父、グリシャは、病で倒れ、そして動けないでいた。
ジークは毎日看病し続け、疲れたのか、眠ってしまった。
ジーク父の寝室。
ジークは父の側で眠っている。
ちーちゃんはそんなジークの背中に、毛布を掛けてあげた。
『ちーちゃん……?』
『ぐわ……』
ジークの父、グリシャが、ちーちゃんに声をかけてきた。
『なぁに? グリシャ』
グリシャ・ベタリナリ。
ジークの父の名前だ。
もちろん、魔獣である自分の声が、グリシャに届くことは無い。
でも心は通じ合っているのだ。
『ちーちゃん……げほげほ!』
『ちょ、グリシャ! 無理しないで!』
ぐわぐわと泣きながら、ちーちゃんはグリシャの頬を舌でなめる。
ちーちゃんにとってジーク、そしてグリシャは、大事な家族なのだ。
『ちーちゃん……おれはもう長くない』
『そ、そんな! グリシャ! 諦めないで! ジークもチノも、さみしがってしまうわ!』
ジークたちに母親はいない。
グリシャが死ねばちーちゃんのいうとおり、二人ぼっちになってしまう。
グリシャは震える手で、ちーちゃんの頭をなでる。
『すまない……おれはもう駄目だ。ちーちゃん……おれの家族を、守ってやってくれ……』
『グリシャ……!!!!!!!!!』
……そしてグリシャ・ベタリナリは息を引き取った。
あの日からちーちゃんは、ベタリナリ兄妹を守るのだと、密かに決意していたのだった。
あれから数年が経過した。
今、ジークを狙って巨悪が侵攻してきた。
今……ここで、ジークからもらった命を使わなくてどうする。
家族を……守るのだ。