218.
ジークの国にせめてきたのは、かつてゲータ・ニィガ王国の勇者であった男、マケーヌ。
チノはちーちゃんとともに、飛行魔法で、現場へと駆けつける。
「これは……!」
「ひどい……」
魔王国国境の町。
街をかこう外壁は破壊され、そしてそこに住まう魔獣や人々は、倒れ伏して動けないでいた。
燃えさかる炎の中、マケーヌはいた。
「ぎゃははは! きんもちぃいいいいいいいい! ジークが大切にしてるもんを、こうしてぶっこわすのちょおおおおおおおおたのしぃいいいいいいいい!」
「マケーヌ!!!!!!」
ジークの大切にしてるものを蹂躙する、マケーヌという男を、チノは心底ゆるせなかった。
マケーヌはチノを見て、にんまりと笑う。
「でたなぁ……ジーク妹ぉ……ひひひ、ボクはてめえに用事があったんだよぉう」
マケーヌはすっかり様変わりしていた。
真っ黒な鎧に身をつつんでいる。
顔は右半分が化け物、左半分が人間の姿をしてる。
「……おぞましい。マケーヌ、人を捨てたのですか?」
「ああ。人間を捨て、ボクは超人となった! 今のボクなら……ジークにだって負けやしない!」
チノは会話を続ける。
少しでも時間を稼ぎ、ジークが来るのを待つ。
なんだかんだいってマケーヌは強い。
チノも魔法の名手ではあるが、やはりジークには劣る。
「ジークを待ってるつもりだろうがよぉ、無駄だぜぇ?」
内心を悟られ、どきっ、と心臓が体に悪いはねかたをする。
無駄……?
「ど、どういうことですかっ!」
「チノ、落ち着きなさいって。きっと嘘に決まってるわ。あたしたちを動揺させようとしてるのよ!」
ちーちゃんがチノをさとそうとする。
おそらくはブラフだろう。
だが、あのにやついた笑みが気になる。
ひょっとしたら嘘ではない……?
「試しに連絡でもしてみたら?」
「…………」
その余裕がむかつくし、敵の提案に乗るのも癪だったものの、しかし兄の安否が気になるので、連絡をする。
通信用の魔道具を使ったものの……。
「! 繋がらない……魔法電波を、ジャックされてるのですか」
「さぁてね。で? どうする……? ここでボクに、おとなしく殺されとく?」
マケーヌからは邪悪なオーラが漏れている。
真正面からぶつかって、勝てる自信がチノにはない。
……だが、兄が来るまでこの国を守らねば。
「戦うに決まってます」
「当然よ。だってあたしたち、国王の女なんだから」
チノ、そしてちーちゃんが戦闘態勢を取る。
マケーヌはあきれたようにため息をついた。
「おいおいおいおい。どこまで馬鹿なの? 彼我の実力差、見てわからないかなぁ?」
「「黙れ!」」
チノとちーちゃんは、それぞれ攻撃のモーションに入る。
ちーちゃんは竜の筋力を使い、どんっ! と地面を思い切り蹴り、マケーヌに接近。
「絶対零度棺!!!!!!!!」
チノは得意の氷魔法でマケーヌを動けなくする。
そこへ、ちーちゃんが拳を叩きこんだ。
「てりゃぁああああああああ!」
ばきぃいいいいいいいいいいん!
氷とともに、マケーヌは粉々になる……はずだった。
ザシュッ……!
「かはっ!」
「ちーちゃんっ!!!!!!!!!」
マケーヌの右腕が、ちーちゃんの腹部を貫いていた。
当の勇者は、傷ひとつついていなかった……。