213.
竜王国スカイ・フォシワへと到着した。
神竜王エルロンの妻、炎竜さんの診察を行う、俺。
すると……。
「エルロン。炎竜さんは……卵が詰まっている」
「! 氷竜のときと同じか!」
かつて第七王妃、氷竜さんは分娩困難、つまり腹の中で卵が詰まるような状況に陥っていた。
今回のケースも似てはいる、が。
「炎竜さんの場合は、卵が2つ」
「なんと! 双子か!」
「ああ。たまにあるんだ。まれな事象だけどな」
二つの卵が腹の中にあり、詰まってしまっている。
ゆえに、炎竜さんは苦しんでいるのだ。
「ううむ……せ、先生。どうすれば?」
「なに、簡単だぜ。シアんときと同じく、直接、卵を取り除いてやれば良い」
氷竜さんからシアの卵を取り出すときは、手術を行った。
でも今は……そんなこと必要ない。
俺は炎竜さんに向かって手を伸ばし、そして腹に触れる。
「俺に命任せてもらえるかい?」
炎竜さんは俺の言葉を聞いて、こくん……とうなずいた。
激痛で、意識を保つのも大変だろうに。
子供のために、こんな見ず知らずの、しかも人間に……命を託してくれたんだ。
なら俺は獣ノ医師として、その信頼に応え、持てる力を使って、最大限の成果を発揮するんだぜ。
「神の手……!」
右手が光り輝く。
俺の手が炎竜さんの腹の中に、するりと入っていく。
「て、手が!? どうなってるんだ先生!?」
「瞬時に破壊再生を繰り返しているのさ」
さっき炎竜さんに近づいたときと、同じ原理だ。
まず細胞を破壊し、穴を開ける。
そこへすかさず治癒魔法で再生する。
その結果、細胞に穴が空いても、体の機能は阻害されないし、痛みも感じない。
んで……。
「よっと」
ずぶぶう……と卵を二つ取り出す。
細胞を活性化させて、体の傷を癒やす……。
「おおおお! 成功だ! すごい、凄いぞせんせえ!」
がしっ、とエルロンが俺の手を握って、上下に振る。
「本当にありがとうなぁ! せんせぇ……!」
「なんのなんの。俺はやるべきことやっただけさ。それより褒めるべきは炎竜さんだよ」
俺はぽんぽん、と彼女のお腹をなでる。
「よく、辛いのに耐えたよ。諦めずに、よくがんばったなぁ」
苦しみに耐えきれなくなり、腹に衝撃を与えて、卵を破壊することはしなかった。
それは中に居る子供を守るための、母の愛があったからだ。
イイ母ちゃんじゃあねえかと、俺は思ったね。