211.
《ジークSide》
俺は神竜王エルロンに頼まれて、奥さんのお産に立ち会うことになった。
エルロンの背中に乗って、空へと向かって飛んでいく。
「竜王国スカイ・フォシワってどんなとこなんだ?」
ドラゴン姿になったエルロンが答えてくれたことによると……。
空に浮かぶ島国のようだ。
そこには神竜族がたくさんいて、暮らしてるんだってさ。
「ふーん、神竜族って……たしか古竜と神の血を引いてるっていう、あれか?」
『そのとおりだ。さすがは先生! 博識だな!』
「まあ実際には見たことないけどね」
エルロンの飛翔能力はどの竜よりも優れており、あっという間に空の、そして雲の上までやってきた。
エルロンが飛んでいくと……。
「んぉ? なんだあのでけえ、翡翠の雲は?」
『あれが我らの国を守る結界だ』
「へー、結界。んじゃ、あの中に神竜族たちの国があるんだな?」
『しかり。しっかりと捕まっておれよ』
エルロンがぐんっ! と速度を上げて、翡翠の雲の中を突っ切っていく。
特に何事もなく、雲の中を進んでいくと……。
「おおお! すっげえ……ホントに空に浮かぶ島があるよ!」
空のあちこちに、小さな浮島がある。
そこには2メートルほどの小型竜たちが暮らしていた。
姿は小さいのに、しかし、古竜よりも強い存在感を発揮してる。
あれが神竜族か……。
『エルロン様!』『おかえりなさいませ!』
神竜族たちがオレらに気づいて、こっちにやってきた。
『! 人間?』『まさかそのお方が……?』
『うむ、ジークである』
おお……! と神竜族さんたちが、感心したように言う。
はれ? 俺のこと知ってる系?
『第七王妃様をお救いになったという、あの!』
『シア王女に名前をつけたという、あの!』
『エルロン様がお認めになった唯一の人間であるという、あの!』
……どうやら俺は知らない間に、有名人になっていたようだなぁ。
『先生は大切な客人だ。我が愛すべき翼たちよ、ジークを丁重にもてなすのだ。よいな?』
『『『はっ……!』』』
うーん、別にそんな丁重にあつかわなくても。
俺は獣たちと友達になりたいんだがなぁ。
『さ、先生。我が宮殿へと招待しよう』
「おいっす、よろしくな」
エルロンは空に浮かぶ島の間を縫って、ゆっくりと飛ぶ。
はー、しかしいいとこだ。
上空うん千メートルのとこにあるっていうのに、気候は非常に穏やかだ。
島の上には豊かな緑があって、そこで畑を耕してたり、家畜を育てたりしてる。
人間がやるような作業を、全部竜たちがこなしていた。
あたまがよく、そして器用な竜たちだなぁ。
そんな風に感心してると、ひときわでっかい島……というか。
「城? 浮いてね?」
『あれが我の城、黒竜城だ!』
「はえー……すげえ……でけえー……」
空に浮かぶあのでけえ城が、どうやらエルロンの住処らしい。
立派なとこに住んでるんだなぁってか。
「どうやって島とか城とか浮いてるの?」
『材質に、【飛行石】が使われておる』
「ほう……? ひこうせき……?」
なんじゃらほい?
『我も詳しくは知らんが、古代より存在する、空に浮かぶ不思議な鉱物らしいぞ』
ふーん、それを加工して竜たちは暮らしてるんだなぁ。
すげえ……。
エルロンは俺を乗せたまま、黒竜城へと到着。
そこへ、見張りの竜たちが集まってきた。
『陛下! 大変です! 炎竜様が!』
「なに!? 炎竜がどうした!?」
えんりゅー?
人間姿になったエルロンが慌てて教えてくれた。
「妊娠している我が第一王妃だ!」
「! すぐに診察に行く!」
「ああ、頼む!」