209.
神竜王エルロンの頼みで、俺は竜王国スカイ・フォシワへと、往診に行くことになった。
その日、魔王国にて。
出発する俺のことを、みんなが見送りにきてくれた。
「うう~……あたしも空を飛べれば、ついてくのに~」
地竜のちーちゃんが、人間姿で言う。
褐色肌に赤い髪の毛が特徴的な、美少女だ。
「……たとえ飛べたとしても、竜王国へは、部外者は入れませんよ、ちーちゃん」
義妹のチノが、ため息交じりに言う。
青みがかった銀髪が特徴的な、俺のかわいい妹だ。
「悪いなみんな。留守は、任せた」
こくん、とちーちゃんとチノがうなずく。
「……イレイナさんと私で、国は十分回せていけますので、こちらのことはご心配なく」
イレイナとは先代魔王の娘のこと。
その子も優秀であり、チノとあわせて、この国にかかせない人材だ。
「……それとその、兄さん……その」
「お? なんだ?」
「……や、やっぱりなんでもないです」
もじもじしながら、チノが言う。
ちーちゃんがその様子を見て、あきれたようにため息をつくと、チノをぐいっとおしていう。
「ジーク、チノはね、あんたが帰ってきたら、言いたいことがあるんだってさ」
「俺に? 言いたいこと?」
「そう。で、あたしからも言いたいことあるから、ちゃんと帰ってきてよね、無事に」
ふぅむ……なんだろうか。
二人が俺に言いたいこと……?
ううーん……。
ま、帰ってきてから聞けばいいか。
「OK。じゃあな、二人とも。国のことは任せるわ」
側で待機していた、神竜王の部下の竜の背に、俺は乗る。
『いってくりゅー!』
「あれ? ちび竜、あんたもいくの?」
シアが竜の姿になって、俺の頭の上にのっかる。
『うん! さとがえり!』
「……シアも神竜の一匹ですからね。竜王国スカイ・フォシワへは入れるのです」
「ぐぬぬ~……いいなぁ……」
とまあ、何はともあれ。
俺はシア、エルロンとともに、竜王国スカイ・フォシワへと向かうのだった。
魔王である俺が、国を離れるのはちょいと心配だったけど……。
まあ、大丈夫だな。チノたちいるし。
それに念のための【保険】も、残しといたし。
まあ、大丈夫だろう。絶対何も起きないな、うん。