206.
結婚……ううん、結婚……。
わからん……ということで、結婚したことのある人に、ちょっと話を聞いてみることにした。
先代魔王のもとへいく、俺。
「おお、ジーク。久しいな」
「よっす、元気?」
「おかげさまでな」
俺がやってきたのは、魔王国の端っこにある村。
そこに小屋があって、先代魔王は、魔族の子供たちに魔法を教えながら、のんびり暮らしてるのだ。
「どうしたジーク」
「いやあ、それがねー」
小屋の庭に、ベンチがある。
そこに座って、俺は最近の悩みを話す。
「ふむ……結婚か」
「うん。どうしようかなぁって」
「おまえ自身どう思ってるのだ? 二人とどうありたい?」
ちーちゃんと、チノ。
二人と……どうなりたいかぁ……。
「まあ今まで通りでも、別にいいかなぁって思ってる」
「ふむ……子供は欲しくないか?」
「子供……むむむ……」
確かにそう言われるとなぁ。
子供……いいなぁって思うことはある。
たとえば神竜王の娘さんとか、神獣王の娘さんとか。
かわいいなぁって思うことはある。
「その二人とのあいだに娘、もしくは息子が欲しいとはおもわぬか?」
「そうだなぁ~……考えたこともなかったな」
宮廷獣医やってたころは、忙しくてそんな暇なかったし(てゆーかちーちゃんは地竜だったし、チノは思春期で俺を避けてたし)。
魔王になった当初は、色んな敵がやってきて、それを追い払ったり、国内の問題をあれこれしてて忙しかったりした。
でも……今は違う。
ちょっと心に余裕が出てきた。
「せっかく考える時間ができたのだ。ゆったりと考えるがいい」
「急がなくていいのかな?」
「別に良いだろう。結婚するしない、いつするかどうかは、人それぞれだ」
そうか……ううん、そうだよなぁ。
「大切なのは、結婚したいという強い意志が己の中にあるかどうか、だと思うぞ」
それ以上、余計なことは言うつもりはないのか、先代はだまっちまった。
でもそうだよなぁ。結局は、自分の意思ってやつが一番大切だろうし。
「ありがと、参考になったよ」
「うむ。ところで我が娘を相手にどうかな?」
「え、え、いや……今二人のうちどっちかって問題もあるし」
「何を言ってる?」
きょとんとした顔の先代。
え?
「今の世の中、重婚などめずらしくないだろう?」
「え、ええ!? そうなのぉ!?」
知らなかった……!
「なぜ知らんのだ……」
「あ、いや……興味なかったし……」
獣ノ医師の仕事以外に、まったく。
先代は苦笑しながら言う。
「世の中的にも重婚は許されている。それに、おまえは王となるのだ。複数の女をめとるのは当然だぞ」
「まじっすか……」
「ああ、だから、誰と結婚するかというのは問題ではなく、そもそも結婚したいかどうかの問題になる」
な、なるほど……
「うちの娘は少々不器用なところがあるが、気立てはいいし、かしこい。どうかな?」
「あ、え、ええっとお……」
「冗談だ。好きに悩むがいいさ、若き魔王よ」