202.女の子達とのスローライフ
ある日のこと。
俺、ジーク・ベタリナリは、獣人国にある湖まできていた。
「ふぁー……ねむい……」
釣り竿を手に持って、俺は湖面に糸を垂らしている。
『ジークー。ぽかぽかきもちーねー』
「おう、そうだなぁ」
俺の頭の上には、白い子犬が寝そべっている。
この子は神獣王の娘。ハク。
俺がこの国に来ることになった、きっかけとなった子だ。
森で倒れてたこの子を俺が助けたところから、すべてが始まったんだよな。
『じーくー。まぶちー』
膝の上に乗っていたのは、蒼銀の鱗を持つ子竜、シア。
こっちは友達の神竜王の娘さんだ。
「おう、ごめんよ」
俺はスキルを使ってパラソルを作る。
俺の右手は、神魔の右手。
最初は回復魔法だったこれも、今やほぼなんでもありな超絶チート能力まで進化している。
あらゆるものを直し、あらゆるものを壊す……創造と破壊の力を持つ。
それを応用してパラソルを作り出したのだ。
『きゅ、ちょうどいいのぉー……』
シアが気持ちよさそうに寝息を立てる。
俺は彼女の頭をなでながら魚を釣り上げる。
「逃げられちった」
『ねーねー、じーくぅ。とってこよっか? 中に入って?』
ぴょん、とハクが飛び降りてそんなことを主張する。
「いいって。のんびりやるさ。時間あるし」
『そうなのー? ここ最近ちょー忙しそうだったけど』
「ああ。一段落したからな、もろもろ」
こっちの国に来てから、魔王になったり、建国したり、元魔王の手下とかが襲いかかったり……。
スローライフするつもりが、忙しい日々を送っていた。
けれど先日地下での一件をおさめてから、驚くほど平和が続いている。
「嫁問題も一段落したからな」
『よめー?』
と、そのときだった。
「ジークぅ!」
振り返ると、赤髪の美女と、青髪の美少女が笑顔で近づいてくる。
ちーちゃん。最初はただの地竜だったけど、存在進化して今は人間になれる。
チノ。俺の妹だ。
「ここにいたのね、チノといっしょに捜してたわよ」
「ごめんって。ん? チノ、なんだそれ?」
妹の手には、バスケットが握られていた。
「お昼ご飯ですよ。ちーちゃんといっしょに作りました。ねー?」
「うん!」
ふたりが仲良くうふふと笑っている。
ああ、仲良きことは良いことだ。
前は、ケンカばっかりしていたふたりも、この間の地下での一件から、仲良くするようになったのだ。
俺たちはレジャーシートを広げて昼ご飯を食べる。
「はい兄さん、あーん♡」
チノがアヒージョをスプーンで掬って俺に向けてくる。
「いや、1人で食えるよ」
「ジーク、そこはちゃんとあーんしてあげて」
ちーちゃんが真剣な顔で言う。
「え、そぉ?」
「そう、それが礼儀」
「わかったよ。あーん」
俺はチノから食べさせてもらう。
うめえ。
「ありがとうちーちゃん」
「ううん、いいのよチノ」
ふふっ、と微笑む。
「ちーちゃんも、あーん♡」
「あーん♡」
チノがちーちゃんにもアヒージョを食べさせる。
『ふたりとも、いつの間に仲良しさん?』
ハクがもふもふと食パンをかじりながら、俺に尋ねてくる。
「前から仲良しさんだったよ」
『ふーん、そっか! なかよきことは、よいことなりー』
『……なりー』
そんなふうにまったりとした午後を過ごす。
さぁ……と森の中に爽やかな風が吹く。
草原の草花を、森の木々を揺らす。
「あー……のんびりしてますなー」
すると、チノとちーちゃんが、ぴったりと俺に寄り添ってくる。
「ところで兄さん……午後の予定ですが……」
「特に……ないわよね……」
うるんだ目で、ふたりが俺を見上げてくる。
「楽しいこと……しない?」
「楽しいことって?」
「そ、それは……は、恥ずかしいわよ、そんなこと言わせないで……」
ちーちゃんが顔を赤くしていやんいやんと体をよじる。
うーむ、なんだろうか……?
「兄さん。気持ちの良いことです」
「気持ちの良いことって?」
「そ、それは……言わせないでください、は、恥ずかしいです……」
うーむ、ふたりが何を言いたいのかさっぱりわからん。
『らぶが、こめってますなー、シアちゃん』
『……じーく、もてもて』
よくわからんが、まあそんなふうにみんなと仲良く過ごす。
「こういう時間が、ずっとずっと続けば良いのにな」