200.妹、兄の帰りを待つ
兄さんが地下で、化け物と戦っている一方その頃。
わたしたちは地上へと先んじて戻っていました。
「ジークさん、大丈夫なのです……?」
洞窟の入り口にわたしたちはいます。
ドワーフのエナさんは心配そうです。
……気持ちはわかります。
わたしたちが出会った敵は、あまりに強敵でした。
兄さんが居るというのに、足がすくんでしまったほどです。
兄さんは、大丈夫。
あの人は最強の魔王。
負けるわけがない。
……それでも、わたしは。
「大丈夫に決まってるじゃない」
ぽん、とエナさんの頭をなでたのは、は虫類こと、ちーちゃんでした。
「ジークは最強無敵の大魔王よ。どんな敵も粉砕するわ」
「で、でも……あんな怖い敵が相手なのです……?」
「バカね。ジークが負けるわけないじゃない。ねえ、チノ」
ちーちゃんが私を見て言います。
その目は、かすかに、不安で揺らいでいました。
けれど彼女は、なんてことのないように言います。
それは、エナさんを初めとした、ドワーフさんたちを、不安がらせないようにという配慮でしょう。
私と違い、この子は、周りに気を配れる優しい人なのだと、気づかされました。
「ええ、そうですね。兄さんは、必ず勝って帰ってきます」
ちーちゃんがニッ……と笑います。
たぶん私のことも、励まそうとしてくれたのでしょう。
……思ったより、悪い子じゃないのかな。
「あ! くるわよ! ジークが!」
シュンッ……! と転移魔法を使って、兄さんが一瞬で移動してきました。
「よっ」
「兄さん!」「ジーク!」
知らず、私は兄さんに飛びついていました。
ちーちゃんもまた、兄の帰還を、心から喜んでいました。
……良かった。
無事で、本当に……。
「おとーさーん!」「エナ!」
兄さんの背後には、ドワーフたちがいました。
その中にはエナさんのお父様もいたようです。
「おとうさん! おとうさん! うわぁあああああああああん!」
「エナ……心配かけてすまないな」
ふたりは、抱き合って涙を流します。
後ろにいたドワーフたちも、再会を喜んでいます。
「ありがとう、ジーク様!」
ドワーフたちは兄さんの前で、深々と頭を下げます。
その目には、兄さんへの深い尊敬の色が見えます。
「我らの救世主だ!」「ありがとう、ジーク様!」
兄さんが皆から認められていると、私は嬉しくなります。
ちーちゃんもまた笑っていました。
「なによ?」
「いえ……あなたも嬉しいんですね」
「当然よ。ジークが褒められると、アタシも嬉しいに決まってるじゃない」
どうしようもなく、この人と私は似ているんだと思いました。