20.王国からの暗殺者
俺はソフィア王に妹を雇ってくれないかと頼んだ。
彼女は快諾し、ともに獣人国で仕えることになったのだった。
「それはいいが、どうしてお前も同じ部屋なんだ?」
夜。
俺にあてがわれた寝室に、チノもすました顔で一緒にいる。
「兄妹が一緒の部屋で寝ることが、そんなにおかしなことでしょうか?」
「いや、別におかしくないか」
「ええ、おかしくありませんっ」
すごい笑顔で、チノが俺の腕に抱き着いてくる。
「兄さん兄さんっ、ひさしぶりの兄さんの香りです……いい匂い……大好きです」
最近大人びてきたと思ったが、まだまだ子供だなぁと思っていたその時だ。
「チノ、下がってろ」
とんっ、と彼女を押す。
そこへ、ブンッ……! と何かが通り過ぎた。
「っ? 襲撃者!? 殲滅します!」
「待った。室内で攻撃魔法は危ない」
部屋の中には、黒い人間達で埋め尽くされている。
ただし生身の人間という感じではない。
「スキル【影人形】です。こいつらには物理攻撃も麻痺や眠りのスキルは通じません」
影人形たちは、広いこの部屋に次々と湧いて出てくる。
「スキルを使っている人間を倒さない限り無限に湧いてきます」
「了解」
ワッ……! と数十体もの影人形たちが、いっせいに襲いかかってくる。
俺はポシェットから縫合用の針と糸を取り出し、たんっ……! と駆ける。
疾風のように彼らの間をくぐり抜ける。
「ふぅ……」
人形達は、その場で動けないようだった。
無理矢理動こうとするが、しかし何かに束縛されて動きを阻害されている。
『なっ!? き、貴様なにをしたっ!?』
どこからか男の声が聞こえる。
「スキル使用者でしょう」
『お、おれの影人形は1体がAランクの強さを持つ! しかも物理や魔法攻撃・状態異常魔法もきかないはず! なぜ!?』
「ちょっと縫い付けただけだよ」
よく見ると透明な糸が、影人形たちの手足を締め付けていることがわかる。
「さすが兄さん。あの一瞬で無数の敵すべてを鎮圧してしまうなんてっ」
『くっ……! この……だ、だがおれがいる限り無限に人形を作れるんだ! 無駄だぁ!』
「ほい、【麻痺】」
俺は影人形のひとりの肩をたたき、麻痺スキルを発動させる。
「な、なぜ……だぁ……! どうして……人形のなかに、潜んでいたと……わかったァ……!」
「え、心音を聞き分けただけだが?」
動物は人間と違って言葉をしゃべらない。
呼吸音や心音など、彼らが発する体からのサインを頼りに治療する必要がある。
だから俺たち獣ノ医師の五感は、常人よりも優れているのだ。
「な、何も使わず……心音を聞き取るなんて……ばけもの、か……」
「【眠り】」
ドサッ、と敵が倒れる。
人形達はいつの間にか消えた。
「ふぅ……しかしなんだろうな、こいつ?」
「本人に直接自白させましょう」
体から静かなる怒気をみなぎらせながら、チノが男に近づく。
「殺しちゃ駄目だぞ?」
「……………………………………もちろんです」
返事までの間が空きすぎて怖いわ。
チノは懐から杖を取り出し、指揮者のように振る。
杖先から白い靄が出て、男の体内に吸収される。
「【洗脳】これでこいつは聞かれたことに嘘偽りなく答える従順な人形になりました」
「そ、そう……」
なにこの魔法怖い。
昔からチノはこういう小技が得意だったなぁ。
「さぁ、あなたはどこの誰に命令されて、私の愛する兄さんを襲ったのですか?」
「……【国王と宰相】に。ジークを殺せと……命じられました」
どうやら元雇い主が、暗殺者を俺に放ったらしい。
「マジかよ……どうして……って、チノ?」
ぱきぱきぱき……と地面が凍り付いてく。
「……許せません。必死になって国に仕えていた兄さんを、殺そうとするなんて」
「ち、チノさん?」
「兄さん……私ちょっと出かけてきます」
俺が止める前に、チノは転移魔法(一度行った場所へ行けるようになる)を使って、その場から消えたのだった。
「どこ行ったんだよ……あいつ……?」
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