197.泥の王
俺たちは協力し、沼の怪人を撃破した。
「あいつの中にエナの親父はいなかった……食ったのは、こいつじゃない」
倒れ伏し、溶けていく怪人を見ながら俺は言う。
「ま、まだ強い敵が出てくるって、ことです」
「ああ。お出ましのようだな」
俺たちの前に現れたのは、漆黒のオーラを纏った、小柄な人物だ。
「チノ、転移だ」
「わ、わかりました」
チノたちは転移で逃がす。俺は一人、残ることにする。
「あいつがエナの親父を食ったやつだ」
「! え、えなも……!」
「ダメだ。チノ、待避」
チノは皆を連れて、地上へと待避する。
残されたのは俺と、漆黒の鎧を身に纏った男。
【オワクブ アホツソアト アキアナジュルヤ】
「アゲアモ ノナルチア ウソブ アク」
俺がこいつらの言語で会話すると、感心したようにつぶやく。
【ほぅ……わかるのか。我らの言葉が】
「動物たちの声なき声と比べたら、稚拙すぎるぜ」
【なるほど……面白いな、地上のサルは】
ぐらぐら、と男が体を揺らす。
「あんたらは何者なんだよ?」
【我は『超越者』より生み出されし『泥の王』だ】
「超越者? なんだよそれ?」
【この世の理を超越した強さを持つものたちのことだ。貴様もその一人ではないのか?】
「いや、違うし、知らんけど」
【そうか……近しい物を感じるぞ。特に貴様の右手からは】
超越者。新しい単語だ。
尋常ならざる存在が、まだこの世には存在するのか。
だが、俺のやることは変わらない。
「取り込んだエナの親父を返してもらおうか」
【それは無理な相談だな】
「会話が成立する相手には、なるたけ武力行使をしたくないんだが」
【遠慮するな。殺す気でこい。我も、貴様を遠慮なく殺す】
俺は構えを取り、泥の王もまた臨戦態勢を取る。




