196.深淵に住まう物
地下、俺たちの前に現れたのは、巨大な化け物だった。
緑と紫の粘液をまき散らす怪獣。
「うぷ……う、うう……」
エナが苦しそうに胸を押さえる。
「なんて高密度の瘴気……兄さん」
「ああ」
俺は聖なるバリアの強度を上げて、エナ達を守る。
右手でエナの背中に触れて、毒を中和する。
「あ、ありがとなのです……」
一方でちーちゃんは、臨戦態勢になっていた。
「ジーク、やばいわあいつ」
「ああ、浄化した部分が、また穢れている」
沼の怪人は、ぎろり……と俺たちをにらみつける。
【アカレアモ】
「な、なに……声が、直接頭に入ってくる……」
「知性を有してるみたいですね、あの化け物は」
怪人の目の光が点滅する。
【アラコトス アティク ネグニン アク オドフラン イオリソモ】
「な、何言ってるのかさっぱりだけど……やばいってことだけはわかるわね」
「思念を飛ばすだけで大気汚染を起こしています。兄さんが居なければ即死です」
しゃべるだけで相手を殺す存在か。
「チノ、ちーちゃん、やるぞ」
俺はちーちゃんたちに、バリアを付与する。
さっきよりも魔力を防御に回す必要がある。
攻撃力は落ちるので、手分けして倒す。
「いっくわよ!」
ちーちゃんは高速で接近し、拳を化け物の腹にたたき込む。
「だめ! まるで手応えがないわ!」
【オノク アコティエト ナラムスト】
ぐっ……と化け物は腹を膨らませ、一気に瘴気の毒を吐き出す。
俺はちーちゃんにバリアをさらに張ってそれを防ぐ。
「チノ、援護を」
「了解兄さん」
沼が一瞬で凍り付く。
チノの魔法で相手の動きを止め、氷の上を俺が走って接近。
「いくぞちーちゃん」
「おっけー!」
俺とちーちゃんの拳に、聖なる魔力を纏わせる。
【アナヅム アドコク】
何を言ってるかさっぱりだが、侮っているのは確かだ。
「「せやぁああああああ!」」
ちーちゃんがアッパーを食らわせる。
【アナカブ ネイラ!?】
化け物が浮き上がる。
俺は飛び上がって、化け物の体に、拳をたたき込んだ。
爆音とともに、沼の化け物はその場に倒れ伏すのだった。
「す、すごい……みなさんすごすぎるのです……!」