194.沼の怪人
大穴の奥底、行方知らずになっていたドワーフの探索部隊を俺たちは見つけ出した。
「ありがとう、ジークさん。本当にありがとう!」
「もうダメかと思ってた」
「あんたは命の恩人だ!」
ドワーフたちが何度も頭を下げる。
「無事で何よりだよ。ところで、エナの父親の件なんだが」
「ああ、ドゴルフさんな」
「途中までは一緒だったのだが、【ヤツ】に食われちまってよ」
「やつ……?」
ドワーフが神妙な顔つきで言う。
「あれは、瘴気の沼でできた……怪人だ」
「沼の怪人……」
ドゴルフは一緒にここに落ちたらしい。
だが沼から出てきた怪人によって食われてしまったそうだ。
「そんな……」
がくん、とエナがその場に膝をつく。
「おとーさん……おとーさぁん……」
ぐすぐす、と涙を流すエナ。
父親が食われて死んだ、となれば悲しくなるのは当然だ。
「エナ。諦めるのは早いぞ」
「でも……食われたって……」
俺はエナの頭に手を置く。
「沼の怪人に食われたからと言って死と直結したわけじゃない。腹の中で生きてるさ。絶対」
「……ジークさん」
チノとちーちゃんも励ますように言う。
「そうよ。落ち込んでるんじゃあないわチビ助」
「ええ。ようするにその沼の怪人を見つけ出せばよいのです」
俺はエナの頭をなでる。
「俺が絶対探し出す。約束だ」
「……はいなのですっ」
これからの方針としては、大穴の探索をしつつ、エナの親父を食べたという沼の怪人を探すかたちだ。
「あんたらは外に送り届けるよ」
「しかし……かなり深い場所まで来ておるぞ」
「問題ないよ」
俺は神魔の左手を使い、チノの転移魔法を模倣し、発動させる。
俺たちの前にゲートを作り出す。
「ほい出口」
「「「ええええええ!?」」」
愕然とした表情で、ゲートの向こう側を見やるドワーフたち。
「し、信じられん……転移結晶ですら出られぬ深き場所だぞここは……?」
ダンジョンから外への帰還用アイテムという物がこの世には存在する。
それすら効果の範囲外となると、そうとうここは深い場所なのだろうな。
「さすが兄さん。神魔の右手で転移魔法を強化したのですね」
「もう何でもありね。すごすぎるわよほんと」
ドワーフたちが感心したように俺を見やる。
「あんた、マジですげえ人なんだな」「神さまや」「ははー!」
「よくわからんが、俺は神さまじゃなくて獣ノ医師だ」
「「「「それは嘘」」」」
全員から否定されてしまった。なんでや。