193.普通に浄化
俺たちはエナの父親、および捜索隊ドワーフたちを探しに、大穴を潜っていた。
「だいぶドワーフの気配が近くなってきましたよ、兄さん」
チノが魔力感知で、ドワーフたちの居場所を割り出す。
ほどなくして、俺たちはホールのような場所へとたどり着いた。
「ガゼルさんっ!」
「おお……ごほ……エナ、ちゃん……」
エナの知り合いらしきドワーフたちが、倒れ伏していた。
「待ってて! いまいくのです!」
「ちょい待ち。あんた、あれが見えないの……?」
ちーちゃんがエナの首根っこを掴む。
俺たちとドワーフたちの間には、毒々しい色の沼が広がっている。
「恐ろしく高濃度の瘴気。気化されているそれを吸い込んでも死に直結します」
チノが鑑定スキルを使って、成分を分析する。
「わしらは落とし穴トラップに……ごほっ、ひっかかってな……ごほげほっ……! 上からここに……」
頭上を見やると、縦穴になっていた。
「飛行魔法で飛ぼうとしても、沼を超えた時点で死にます」
「そんな……!」
ドワーフたちも限界らしく、顔が土気色をしていた。
「エナ……もうおれらはいい……ドゴルフさんを……探すんだ……」
「ドゴルフ?」
「おとうさんなのです。ひとりだけ、いないのです」
なるほど、探索部隊とはぐれちまったのか。
トラップに引っかかって落ちてくるときに。
「待ってろ」
「に、兄ちゃん! なにするつもりだ!?」
「何って、普通に浄化」
「ば、バカ言うんじゃあない!」「そうだ! 吸い込むだけで死ぬような猛毒だぞ!」
俺は気にせず瘴気の沼に近づいて、ちゃぽん……と手を入れる。
「「「ええええええええ!?」」」
「【ヒール】」
「「「ええええええええええええ!?」」」
毒々しい沼は一瞬で、透明な水へと変わった。
チノはそれをジッと見て、感心したようにつぶやく。
「無害な水に変わっています。さすが兄さんです」
「「「…………」」」
ざぶざぶと歩いて、彼らの元へ行く。
「【ヒール】」
しゅおっ! と一瞬でドワーフたちの体に含まれていた瘴気が浄化される。
「す、す、すげえ!」「体が軽い!」「どうなってるやがるんだぁ!?」
キラキラした目を、ドワーフたちが俺に向けてくる。
「あんた……すげえな!」「ありがとう! 命の恩人だ!」「教えてくれ、何者だあんた!?」
「俺はジーク。ただの獣ノ医師だ」
「「「いや、それはない」」」
全員にきっぱりと否定されてしまう。
「救世の勇者さまだな」「あるいは天より使わされた使徒さまか」「それとも神そのものかも」
一方でちーちゃんがため息をついて言う。
「ジークをただの獣ノ医師だって、もはや誰も信じてくれないわね」