19.国王、ジークの凄さに今更気づくがもう遅い
ジークが妹チノを連れて、獣人国へと戻った数日後。
国王の間には、王立魔法大学の教授が来ていた。
「ですから陛下! なぜジーク・ベタリナリを飼育係なんぞにおいていたのです! 魔法世界の損失ですよ!」
国王は玉座に座り、ふぅ……と呆れたようにため息をつく。
「宰相、聞いておったか? この愚か者の戯言を」
「ええ、ええ、もちろん。なーにがジークが1000年のひとりの魔法の天才ですか。ぷぷ、あほくさくてたまりませんなぁ……!」
魔法大学教授が、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「これだけ懇切丁寧に、彼の魔法技術の素晴らしさを説いているというのに! なぜわからないのですかっ!?」
「ふんっ、ジークの魔法がすごいだと? 笑わせるな」
「我らとて、やつが魔法を使えることくらいは知っておったわ」
はぁああ!? と教授が驚愕の表情を浮かべる。
「か、彼の魔法を目の当たりにしていたにも関わらず、宮廷魔導師に彼を推薦しなかったのですか!? なぜ!?」
「畜生どもの世話があったからな」
信じられない……という完全に呆れたような表情となる。
と、そのときだった。
「た、大変でございますッ……!」
王の間に入ってきたのは、遊牧民のリーダーだった。
「王の許可なく入室するな! この無礼な遊牧民め。いったいどうしたというのだ?」
すると遊牧民リーダーが、まっさおな顔で言う。
「さ、昨晩の台風は……ご存じでしょうか?」
「うむ、たいそうな大嵐であったな。それがどうした?」
「台風のせいで、家畜のエサ用に積んであった牧草が、すべて流れていってしまいました!」
「「なんだとぉおおおおおお!?」」
国王も、そして宰相も目を見開いて叫ぶ。
「つ、つまり家畜たちのエサが失われたと言うことか!?」
「は、はい……」
宰相はさぁ……と顔を青くする。
「な、何をバカなことをしておるのだ貴様ぁ……!」
国王は怒りで顔を真っ赤にすると、遊牧民のリーダーに近づいて、殴り飛ばす。
「貴様家畜の管理者だろ!?」
国王は、声を荒らげていう。
「なぜ結界魔法を張らなかった!?」
……その場にいた遊牧民リーダーも、そして、魔法大学教授も、ぽかーんと口を開いた。
「こ、国王陛下……本気で、おっしゃっているのですか?」
教授が、まるで子供に言い聞かせるように言う。
「結界魔法なんて高度な魔法が、遊牧民に使えるわけがないでしょう……?」
こくこく! とリーダーが強くうなずく。
「デタラメを言うな! 結界が使えなかったら嵐の際にエサが流れ、牛や馬が川の氾濫に飲み込まれてしまうではないか!」
「陛下のおっしゃるとおりです。だからてっきり、宮廷魔導師様が複数名で、国営牧場に結界を張っているものかと」
リーダーの言葉に、国王が真顔で言う。
「牧場用の結界など、ジークが全てひとりで張っていたではないか?」
「「は?」」
「やつは国の外にある牧場全て、さらには城内部の竜舎や厩舎など全域に結界を張っていたのですぞ。それくらいおまえらも当然できるのであろう?」
遊牧民リーダーと、魔法大学教授が顔を見合わせる。
彼らは、完全にあきれ返っていた。
「……陛下。はっきり申し上げましょう。バカかあんた?」
リーダーの言葉に、国王は怒髪天をつく勢いで憤る。
「い、一国の王に対してなんだその口ぶりはぁ!」
「王様がこんな無能じゃこの先にやってられんわ。おれたち遊牧民は、悪いけど手を引かせてもらうよ」
リーダーは踵を返して部屋から出て行こうとする。
「ま、待て! おまえたちがいなくなったら管理はどうなる?」
宰相が引き留めようとするが、フンッ……! とリーダーは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「どこの世界に、広大な牧場に、しかも国が経営しているすべてに、結界を張れる獣の世話係がいるってんだ」
リーダーはそう言って、扉を乱暴にしめた。
「……わたくしも王立魔法大学の教授を辞任しようと思います」
「なっ!? なぜだ!?」
「先行きが不安だからです。では……」
教授すらも出て行き、あとには国王と宰相だけが残される。
「へ、陛下……も、もしやジークが当然のようにやっていたことは、と、とても高度な技術だったのでは……?」
「ば、バカ言うな! 畜生係ごときが、そんな高度なことなどできるわけがないのだっ!」
「し、しかしもし、教授が提言したとおり、ジークが魔法のとんでもない天才だったとしたら……すべてに辻褄が合いますぞ……」
「だ、黙れ黙れ黙れぇええ! じ、ジークは無能なのだ! それを切り捨てた判断が間違っているとでも言うのかぁ!?」
子供のように叫ぶ国王だったが、冷や汗をかいていたのだった。
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