175.俺何かしちゃいました?
船が破壊され、漂流していた人たちを、俺は助けた。
船の甲板から身を乗り出して、海面を見やる。
現れたのはクラーケンだ。
海に住むモンスターで、強さはAランクだったと思う。
「や、やばいぞ! おれらの乗った船は、このバケモノに壊されたんだ!」
救助者たちがクラーケンを見上げて怯えた表情を取る。
しかし解せない。
モンスターはかつて、始祖の魔王の呪いで、無理矢理人間を襲うように仕向けられていた。
俺が呪いを解いたことで、モンスターたちは解放され、人を襲わなくなったはずなんだが。
「あ、あぶねえー!」
これはどうしたもんだろうか。
また新しい魔なるものが呪いでもかけたのだろうか。
「く、クラーケンの攻撃を受けてもびくとしない!? ば、バカな! 無敵かあの人は!?」
まあ確かに呪いが解かれたと言っても、元から人間に対して悪感情を抱いていた相手にはどうもできないしな。
「す、すげえ! あの人クラーケンの強力な水魔法を受けているのに、びくともしない! どうなってやがる!?」
テイムの力を使えばモンスターを支配下に置けるんだが、俺はなるたけそういうのって使いたくないんだよな。
心を支配するみたいな感じでさ。
「なんだ今の!? クラーケンの放った全魔力を集中させた一撃を受けてもなお船が無傷なんて!?」
くいくい、とチノが俺の腕を引く。
「兄さん兄さん、戦闘がはじまってます」
「え、マジで?」
いかん考え込んでしまったな。
「とりあえずクラーケンを無力化しないと……って、あれ? クラーケンは?」
ぐったり、と魔物は海の上で大の字になっていた。
「さすが兄さんです」
「え、俺何かしたか?」
「いいえなにも。ただ何もせずとも、Aランクモンスターの大群の攻撃を受けてもびくともしていなかっただけです」
「え? 大軍?」
気づけばクラーケンは1匹だけでなかった。
複数いて、全員がスタミナ切れで倒れている。
「どうやら兄さんは無意識でバリアを張っていたようですね。我々の乗っている船は無事です」
「いや俺なんもしたつもりないんだけど……」
救助者たちは俺を唖然とした表情で見ている。
「な、なにもんなんだ、あんた?」
「え、ええっとただの、獣ノ医師です」
「「「うそをつけぇええええええええ!」」」




