174.海難救助
出発の翌日。
俺たちはドワーフ国へ向かう船に乗って、まったりしていた。
「こういう旅もいいもんだ」
「そうですね、兄さん最近ずっと忙しくしてましたし」
俺たちは甲板にて、流れていく景色を見ている。
ゆったりと流れる時間と景色を味わう。
これぞ旅の醍醐味というものだ。
「このまま何もないと良いんだがな」
「あ、あんたち……うぷ、よく平気ね」
ちーちゃんが青い顔をして、船室からふらふら出てくる。
俺の治癒で船酔いを治してあげると、ふぅ……とちーちゃんが吐息をつく。
「やはり蜥蜴は陸地から離れるべきではなかったのでは?」
「ケンカ売ってるのねそうなのね?」
ふたりともが顔をつきあわせて、互いににらみ合っている。
やめろってばもう。
「単に海って苦手なだけよ。水棲モンスターってうねうねしててキモいし」
「とはいっても兄さんが始祖の呪いを解いたので、モンスターなんて出るわけないんですけどね」
と、そのときだった。
「………………………………おーい」
「チノ。何か聞こえなかったか?」
俺は神魔の眼で周囲を見渡す。
そこそこ離れた先で……海で人が溺れていた。
「チノ。行くぞ」
「ええ、兄さん」
俺とチノは飛翔を使って、その人らのもとへと向かう。
海に浮かんでいる人たちの周辺には、壊れた船の欠片があった。
俺たちは協力して、全員を船へと運ぶ。
救助者たちは青い顔をして、ブルブルと震えている。
俺は右手の治癒の力で、全員の状態を回復させた。
「し、信じられん……寒さも空腹も収まった」
「大丈夫みたいだな」
「あ、ああ……すげえなあんた、なにもんだ?」
救助者達が俺を見て感心する。
「ただの、まあ旅人だよ。何があったんだ?」
「実は……」
と、そのときである。
「ジーク! 敵よ!」
ちーちゃんが犬歯をむき出しにして言う。
ざば……! と海面が盛り上がると、そこにいたのは……眼を赤くした水棲のモンスターだった。