172.船旅
俺たちはドワーフの国へ行くべく、船に乗って南東へ向かっていた。
「船旅か。懐かしいな」
最近どこへ行くにも飛翔や転移で、こうして船に乗ってというのは本当に久しぶりだ。
というのも、今回は別にドワーフ国から、救援を求められていくわけじゃない。
あくまでも、俺が個人的に調査を行いにいくだけ。
飛んで行ったり転移したりすると、失礼だからな。
「じ、ジーク……沈まない? ねえこの船沈まない?」
甲板にて、人化したちーちゃんが、俺の腕に抱き着いて震えていた。
地竜として生まれ育ち、海なんて見たこともなければ、ましてや船なんて乗ったことが無い。
だから彼女は怖がっているのだろう。
「大丈夫だって」
「で、でも途中で魔物に襲われたら? 沈没しちゃう?」
「始祖の魔王の呪いが解けてるんだ。魔物が人を襲うことはないだろ」
「そ、そうね……絶対大丈夫よね」
その様子を、チノが笑顔で見て言う。
「そろそろ離れてはどうですか?」
どことなく、わが妹は怒っているようにも思えた。
「いやよ。怖いもの」
「ではマストにでもしがみついていれば?」
「いや」
「兄さんから離れなさい」
「いーや!」
べっ、と舌を出すちーちゃんに、チノがびきびきと額に血管を浮かべさせる。
「チノ。魔力が漏れてる」
「兄さんどいて、そいつ殺せない」
「殺さないでくれ……」
神竜王の提案もあって、俺はふたりを連れて海を渡ることになった。
別に俺一人で良かったんだが、頑としてふたりがついてくると譲らないのだった。
「過剰に接触しないでください。爬虫類が伝染ったらどうするんです?」
「伝染らないわよ! かみ殺すわよー!」
「ケンカしないでくれ……」
不安だ……。