170.不穏なウワサ
商人のラルクが仕入れにやっている。
応接間にて。
「ところで、ジークさん。最近【地盤沈下】が各地で見られているみたいんですけど、こっちは大丈夫ですか?」
「地盤沈下、だって?」
ラルクはうなずいて、鞄から地図を取り出す。
「最近になって、急に地面が崩れる事件があちこちで見られるようになったんですよ」
地図にペンで印をつけていく。
規則性はなく、各地で見られているようだ。
「不自然ですね、どうにも」
チノが真剣な表情で言う。
「そうか? 地盤沈下なんてよくあることじゃないのか?」
「いいえ、そうそうあることではありませんよ」
ラルクも同意見らしく、うなずいて言う。
「沈んだ地盤を調査する国もあったらしいんです」
「あった?」
「……調査団が、帰ってこないんです」
なるほど、それはきな臭い。
「穴の中には何があるんだろうな」
「わかりません。ただ……その国は調査を打ち切ったようです」
「当然ですね。何が地下で待ち構えてるのかわかりませんし」
謎の地盤沈下。
帰ってこない調査団。
それに、誰かが故意に引き起こしている可能性。
「なぁ、ラルク。調査隊を派遣したのって、どこら辺の国だ?」
ラルクは地図の南東部分を指さす。
「【カイ・パゴス】。【ドワーフ】たちの国です」
「ドワーフか……」
「兄さん、何を考えているんです?」
チノが不安げに尋ねてくる。
「いや、調査させてもらえないかと思ってさ」
「な、なぜ? 自ら危険な場所に突っ込んでいくのですか?」
「だってその現象が、誰かが引き起こしているんだったら、ここでも起きるかも知れないだろ。うちに被害が来る前に止めておきたい」
「でも……」
俺はチノの頭をなでる。
「頼むよ、チノ」
「……ズルいです」
ふぅ、とチノがため息をつく。
「わかりました。でも、無茶はしないでくださいね」